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転生者選定NO.  作者: 鈴明明書房
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勇者の指針は揺れる3

 ギユ・オーバ。年齢16歳、猫人、身長はミニアドより少し低い程度。痩せ型。明るい印象もといバカ明るい印象。


 基本的に能天気、前向き、人懐こい。猫人というより猫に近い行動をしている。しっぽの動きで考えや感情が読める。先日一加の膝枕で気持ちよさそうに寝ていた。あとがめつい。素材は余すことなく回収。売買の交渉は1の位までは当然。どうしてそこまでお金に執着しているのかを問いただすと強引に話を逸らすので不明。とにかく金銭に関しては細かい。


 いち冒険者、斥候約として。五感をフル活用した罠、魔物探知はお手の物。斥候としての知識や経験を基にした発言もミニアドの参考になる。

 戦闘では飛び跳ねたり、煙玉や投石などでのかく乱、囮役が主である。攻撃手段は手持ちのナイフ、しなやか脚による蹴り、場合によってはしっぽ。ただ、攻撃を当てる技量は持っているが、1撃の重さはないのでタフさや防御力の高い相手には不利。暴れ馬か鹿とのクエストをチームで挑んでいたのも攻撃力不足からだった。


 故に本人は誰かと組んでこそ真価を発揮するタイプ。1人でもいればチームの生存率を跳ね上げる存在。を自称しそれを売り込んでいた。


 そして、トラブルメーカー。


 素材の売買交渉からのケンカ。食事中にからまれる。謎の被害者の会からの追跡。一加へのセクハラ被害が大乱闘。くせの悪い酔っ払いの身ぐるみを全て剥ぐ。全ての発生原因がギユにあるとは言わないが、とにかくトラブルが起きる、トラブルに巻き込まれる。大参事はないが、心身ともに別の疲労がたまってくる。


 


「で、なにを悩んでいるんです?姐さん。相談や悩みは聞きますよ。話すのも聞くのもタダなんですから。」


 こうなったギユは無視しても居続けるだろう。部屋にいるのは自分だけ、一加とエクバは外に出ている。


「そうね。あなたの不必要性について答えてくれるかしら。」


「そうですね。静かにするのは苦手なので静寂な場所には連れていけない。援護支援向きなので1対1の場には任せれない。なぜかトラブルに巻き込まれるのが多い。ってとこですかね。まあ。それを超える以上に必要性はありますけどね。」


「最後の必要性はともかく、自分のことはわかっているのね。」


「にいやー。それほどでも。」


 恥ずかしそうに頭をかくギユ。褒めたつもりは一切ないミニアドは呆れた目線を送る。


「そのお気楽さを学びたいわ。」


「なら、講師として、魔王討伐までお付き合いしますよ。どうです?」


 一加が勇者だと知ったときから、ギユはときおり、勇者一行への参加を希望する。いまのところ、すべては断っている。さすがに危険すぎる。


「・・・・・本音は?」


「そにゃあ。あらゆる場面で手に入ったお金、素材、お宝ですよ。にゃっにゃっ。」


 ウィンクして答えるギユ。魔王退治という大事を気軽に考えすぎに思う。勇者がいるから大丈夫と考えているのかもしれない。


「・・・・一加がいるなら大丈夫と思ったりしている?」


「そにゃあ。魔王相手にそこまでは思いませんが、大抵の魔物なら問題ないのではと。」


「そんなわけないでしょ。」


 その大抵の魔物に苦戦している一加をギユは知っているはずだ。エクバや自分に比べて明らかに動きが悪いことも見てわかるはずだ。


「やっぱりそこが悩みなんですか。」


「・・・・・・・・・・・・・・。」


「イチカ姉さんの動きが悪いことは私でもわかりますよ。なんか空回りしているっていうか、私のほうを気にしすぎというか。」


 ギユのいう通りであった。ネネラのようにはさせない、ギユは死なせない。一加はそこにも意識がいきすぎて、空回りをしている。 

 

 真面目な表情になりギユはミニアドの前に座る。


「イチカ姉さんも、姐さんも内側に溜めすぎなんですよ。吐き出した方が楽になりますよ。私はそうしてます。」


 「・・・・・悩んだことがあるの?」


 ミニアドの問に腕を組んで考えるギユ。


「そう、言われるとないですねって、酷くないですかあああああああ。ありますよおおおお。私だって悩悩める乙女ですよおおお。悩んでいるときはありますよおおおおお。」


「な、病んでいるときはあるのね。」


「姐さん、区切りおかしくないですか?」


「冗談よ。ふふ。」


「にぃやはははっはは。」


 満点の笑顔を見せるギユに観念したミニアド。


「・・・・・・・・・・・わかったわ。」 




「・・・・・・なのよ。」


 ミニアドはここまでの経緯、自分たちの役割、それゆえの悩みを。流石にパートナーがほしいことは伏せたが、それでも話すことでミニアドは少しだけ楽にはなった気がする。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 ギユは珍しく口を閉じている。回答までは期待していなかったので、この件はここまでだ。


「すこしだけ楽になったわ。聞いてくれてありがとう。」


「そうですねえ。まずはイチカさんたちも呼んできます。姐さんは待っててください。」


「え?あ。ちょっと」


 ミニドアが止めるのは間に合わず、ギユは部屋を飛び出していく。数分後、イチカとエクバを部屋に引っ張ってきた。


「姐さんからみなさんのことを聞きました。イチカ姉さんの動きが悪い理由も。エクバの姉貴がイチカ姉さんに寄り添う理由も、ミニアド姐さんが私に対する当たりが強くて多い理由も少しわかりました。その話を聞いた結果、私が言えることは・・・・」


 仁王立ちするギユに視線が集まる。


「もっと気楽にいきましょうよ。」


「話した私がバカだったかしら。」


 遠い目をするミニアド。


「ひっどいなあ。聞いてくださいよ。」


 心外だと頬を膨らませるギユ。しっぽもピンとしている。


「だってまだ、旅を初めたばかりじゃあないですか。目標は魔王なんですよね。そこに最高潮をもっていくんですよね。明日魔王と戦うわけではないんでしょう。これからずっと力んだままなんて無理ですよ。力みすぎても、焦りすぎてもいい結果はでないすよお。」


「失敗が取返しのつかないことになるのよ。そう考えると力は入ってしまわない?」


 自分たちは失敗が許されない。その重みが指針としての決断を躊躇させる。これでいいのか?こっちであっているのか?それが自分の悩みになっている。それは一加も同じで手を強く握っている。


「常に自分のできる最善に向かって努力はしないといけないけど、絶対、最高の結果しか求めないのは無理ですよ。」


「私たち、ううん、一加が死んだら世界は終わりなのよ。」


 ミニアドの視線は一加へ。魔王を倒せるのは勇者だけ。これはこの世界では常識となっている。


「それはそれですよ。だって世界の命運を任せた以上、失敗したら、一緒に終わるだけです。」


 一加は目線を下げてしまう。そのようなことをイメージしてしまったのだろう。


「あっさり言うわね。いいの?自分が原因じゃなく死ぬことになるのは。」


「なら自分たちも戦いにいけばいいんですよ。魔王の存在は皆、認識しているんですから。でも大半の人は日常を送っている。日々の日常で精いっぱいのほうが多いです。実際、私もそうですし。今は無関心なのに、後から被害を受けたって文句を言っても無意味です。勇者といってもただの人間なんですから、1人のせいにするほうがどうかしてます。少なくとも魔王退治とか、世界クラスのことに関して、私はそう思います。私だってある意味みなさんと同じような、あ。」


「同じような?」


「にゃあんでもないです。とにかく、言いたいことはイチカ姉さんも姐さんも力みすぎ、失敗を恐れすぎってことです。」


 ギユはごまかすように胸を張る。


「そうかもね。」


 ミニアドは素直に思った。失敗を回避することしか考えていなかった。そのことを全否定するつもりはないが、結果的に今は現状維持、安パイな行動しかしていない。




「で、失敗したくないイチカ姉さんは強くなりたいから、討伐系のクエストを受けているんでいすよね?」


 ギユの言葉にイチカはうなずく。


「あっまーーいです。イチカ姉さんが戦いの中で強くなろうなんて無理です。」


 ギユはビシッと右手としっぽで一加を指す。その言葉に一加はすでに泣きそうになっている。


「戦いの中で強くなるというのは確かにあります。私も実感したことがあります。でもそれは積み重ねてきた練習、経験などが噛み合って起きるものだと私は思います。でも、姉さんには積み重ねてきたものがないです。」


「待ってよ、ギユ。イチカだって月円王国で訓練しているよ。」


 エクバがイチカをかばように反論する。


「2週間ですよね?」


「・・・・・・ええ。」


 冷静に返すギユ。


「姉貴、姐さんの強さなら、戦いの中で強くなったことは数度あると思いますが、それは2週間でありましたか?ほんのわずかならものなら、少なくとも数か月、あきらかな実感なら数年経ってからじゃないですか?私はそうでした。」


 ギユの言葉に2人は無言でいた。それはギユの推測が当たっている証拠だった。


「2週間で今の強さってのは確かにすごいです。ですが、口悪く言うならそれは勇者の力、素質であって、イチカ姉さんが積み重ねたものではないです。2週間の訓練は甘く見積もっても基礎しかないです。」


「・・・・・・なら、私はどうすればいいの?」


 ギユの言葉の剣がグサグサと刺さってボロボロの一加はエクバに支えられている。かろうじて勇者としての立場が泣くのを我慢している。


「焦らず、一から訓練しましょう。少しづつでも確かに強くなっていきましょう。私もお付き合いしますよ。」


「そんな時間は世界にあるの?」


「現在、魔王の居場所は不明ですよね。」


「ええ。」


 ミニアドは頷く。魔王の行動、拠点は魔王それぞれによる。現在、五大国を中心として捜索はされているが、魔王自身の積極的な行動もないため、居場所にあっては有力情報がない。ミニアドとしても指針という立場上、情報はほしいところであった。


「ならば、今こそと言うか、どんなときもですが、基本を一歩一歩やっていくべきです。」


「でも、私にはゆったりしたり、悩んだりする時間は。」


「これを見てください。」


 一加の言葉を遮りギユは方位磁石を取り出す。方位磁石は静かに揺れたのち、北を示す。


「方位磁石がどうしたの、ギユ?」


 エクバは首をかしげる。


「今見た通り、方位磁石だって、取り出して方位を示すまでは少し揺れるじゃないですか。いきなりビタって示すわけないじゃないですか。」


「それはそうね。」


 ギユは手を揺らしたので、方位磁石も再び揺れる。


「つまり、揺れることは方位を示すのに必要な過程なんですよお、姐さん。」


「なにが言いたいの?」


 一加はギユを見る。


「今、姉さんたちは揺れてる最中ってことなんですよお。この揺れているのは、次に向けての考える時間なのです。」


 ギユが手を止め、方位磁石も北を示す。


「揺れるのが終わって方位を示す。つまり、考えまとまったなら行動するってこと?」


「そうです、姉貴。行動の前に考えたり、悩んだりする時間があるのは自然なことなんです。そして、針は方向を示した後も微妙に揺れている。それは目標、考えを決めた後でも悩むこと、考えること自体は一切否定してないんです。」


「「「・・・・・・・・。」」」


 勇者一行はギユの手にある位磁石を無言で見つめていた。


「まあ、言いたいことは、悩むのもよし、でも気楽に一歩ずつ行きましょうってことです。全部受け売りですが。」


 ギユは方位磁石を仕舞う。


「・・・・・イチカ。もう少しこの街にいましょうか。」


「うん。私もそうしたい。エクバ、これから、剣術の鍛錬に付き合って。」


「そうだね。」


 一加とエクバは立ち上がる。


「ねえ、ギユ。」


「なんです、姉さん?」


「ギユが問題ないなら、もう少し私たちに付き合って。」


「それはこちらからもお願いしますよお。」


「ありがとう。よろしくね。」


 エクバと一加は部屋を出ていく。


「私からもお礼は言うわ。ギユ。」


「なんですか。姐さん、改まって。」


「一加の表情が少し柔らかくなったからね。たぶん、少しだけ力を抜けたと思う。」


「そうなんですか?まじめな表情のままなんで、私には分からないんですが?」


「ふふ。それこそ、積み重ねた時間の差ね。」


「ふにぃやああ。そりゃあ、そうですねええ。」


「とにかく、あなたのおかげで、いい方向にいきそうな気がするわ。」


「にぃやあ。そう言われると、姐さんたちに指導したかいがありますわ。」


「本当の狙いは?」


「そにゃあ。姉さんの復活でより高額クエスト、あ・・・・・・。姉さんの舎弟として心配だっただけですう。」


 ギユはミニアドの腕をつかむ。


「あははははは。」


 ミニアドも久々に気持ちが軽くなった。一加にとってのきっかけになればと思って同行を許したギユに自分も助けられた。このことは感謝するが、本人は調子にのりそうなので言わない。

 そして、この日を境に一加の不調は解消された。




 百次は数日ぶりに安堵している。


 ここ数日の一加を見ていると心苦しかった。表情は苦しそうにしており、エクバにずっと支えられている状況だった。だが、今パソコン越しに見える一加の笑顔は重圧から解き放たれたのを実感させてくれる。


 これもギユ・オーバという猫人のおかげなんだろう。ギユの明るさと一加への言葉が一加の身を軽くしてくれた。感謝する機会はないが心底感謝している。


 ただ、ときおり一加の膝枕で気持ちよさそうに寝ているのが恨めしい。背中を洗いますと言って、胸を触る手つきが恨めしい。ここが暖かかったといって一加に添い寝しているのが恨めしい。あの人懐こい性格ですべて許されているのが恨めしい。


 一加の助けになった人物だが、素直に喜べない自分もいる。それでも一加とギユが一緒にいるのは絵になるので、その画像は『一加とペット』のフォルダに保存していた。










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