転生してからは自由です。
世界は4種類あると百次は、ここへ来た当初に教わっている。
神有界 神により作られ管理されている世界
管理の方法は神次第
例 エクバやミニアドがいる世界 バルララがいた世界 シャウサのいた世界
神無界 自然発生し神の管理がない世界
神が認知しても、直接は管理できない。
例 百次や一加がいた世界
神来界 神無界をコピーし神の管理に置かれた世界
神無界からすれば、神の介入があったパラレルワールドに位置する。
神の介入で世界がどう変わるのか、それは神にもわからない。
例 風矢のいた世界
神去界 神の管理から離れた世界
神が決めるの基準に達したことより、一人立ちした世界。放棄ではない・・・・基本的には。
百次に条件を出した神が管理する世界の1つであるエクバたちのいる世界。その世界が勇者を召還するのに百次のいた世界と繋がった。
これにより神は百次の世界を認知し、興味を持った神は百次の世界をオリジナルに、パラレルワールドとなる神来界を創造している。
以前転生させた人内風矢は百次の世界のパラレルワールドの住人だが、百次となにも変わらない一般人だった。
だが目前の人物は違う。神の介入で変わった部分を如実に表す1人だ。
百次の目の前にいるのは一見ただの老人。だが、この世界で武の一角として知られている老人。
世界に多数の支部を持つ武の一門のトップ。だけではない。
世界大会で優勝できる弟子が多数いる。だけではない。
格闘に疎い人でも名前だけは知っている。だけではない。
裏世界にも轟く者。だけではない。
その場にいるだけで人を気絶させる。だけではない。
その拳は、高層ビルを裂き、その蹴りは戦艦を砕く。だけではない。
彼は一組織を壊滅させ、津波を沈め、隕石を粉砕した。嘘のようで、漫画のような出来事を彼は実践している。
一般的な化学技術や文化は百次の世界とは変わらないが、日常のなかに超常がある世界。彼はその世界の最高峰の戦力を有する個人の1人である。
人外夢驚。拳極地。東方の武星。百年先も現役。武神との境界線。人生は80から。鍛錬は超常へ至り、そして、超える。氣を広めし者。 高みにたどり着いた先に見える高み。etc。
異名は多数あった。だが、本人が笑みを見せるのは
「師匠」「老師」
と呼ばれたときだった。
本名 武五
享年 103歳
流派 永闘拳
弟子 10人から先は数えていない。
趣味 試合観戦
困ったこと スマホを使いこなしていることを弟子に疑われる。
経歴 5歳 八極拳を習い始める
17歳 世界各地へ転々と戦いの日々を始める。
32歳 氣を武へ取り込む鍛錬を始める。
40歳 ある大会で優勝。世界に氣が認知され、そこから世に隠れていた超常の力が認識され始める。
弟子入りを望むものが現れる。
48歳 永闘拳を立ち上げ。
56歳 ある犯罪組織を数人の弟子と壊滅させる。
73歳 不運が重なりバナナの皮に滑って右足を骨折する。
89歳 支部が500越え。
100歳 弟子と共に隕石を消滅させる。
103歳 瀕死となった弟子に自分の全生命力を氣として与え、死亡。
武の一角として知られた彼は老衰でも、戦いの中でもない、死を迎えた。その死に哀悼を示したのは弟子でだけでなく、同じ時代を歩んだ友、宿敵、悪行より破門された弟子、潰された組織のトップにまで及んだ。
彼は自分の行いに、弟子を救ったことに後悔はない。
鍛錬と実践で一武人として高みに至った自分。そこからさらなる高みへ行けたのは弟子のおかげであった。故にいつからか、弟子を育てることはそのお礼でもあると考えていた。弟子に教え、教えられる。それが彼の日常であり、幸福であった。そのため、弟子に自分の命を与えたことに後悔はない。
そんな彼の唯一の無念。自分の命を与え救った弟子の大成。格闘家としての完成を見届けれなかったこと。
まだ幼く、未熟だった弟子。だが、既に光る原石だった弟子。生涯武にささげた彼に実の家族は既になく、弟子が家族であった彼にとってはひ孫のような弟子。
弟子がどのような格闘家となり、どんな人生を歩むのかが密かに楽しみだった。
その無念は1つの奇跡を呼ぶ起こす。
「という条件にあてはまったわけで、転生できるわけ。老師さん。」
目の前にいる青年は自分に対して、転生のチャンスが巡ってきた理由を告げる。話を聞く限り青年は神で、その傍らの女性は天使の立場になるものなのだろう。人とは違う気配をもっている女性の存在が死後の世界や転生の話に真実味を持たせている。
『転移者 NO.22
人間年齢90歳以上で老衰以外で死んだ者。
転生年齢は死亡したときと同一とする。』
確かに自分は102、103歳だったか?どっちでもいいが、90歳以上の年齢で老衰以外でなくなっている。
103歳と年齢で、老い先短いという考えもあるかもしれないが、そんな気は一切しない。弟子の件がなかった場合、あと数十年は弟子を育てる今までの変わらない生活をしていたと思う。
それと同時に103歳まで生きたことだから、なにがなんでも転生したいわけでもない。武と出会い、己を高め続きえた人生に後悔はない。救った弟子のことは気になり、無念といったら無念にはなるか。だが、それを含めても後悔はない。
「どうだい?転生する?なにがなんでもって分けではないんだけどさ。」
目の前の青年はこちらの顔を伺う。・・・・なにがなんでもというのは、そちらのようだ。老師は長年の経験から察する。百次の方が老師を転生させようとしていることを。腹の底を確かめるため、老師は質問をする。
「転生先とやらで、儂はなにをすればよいのかな?」
「なにもないよ、そこはご自由に。全く違うことを始めるとか、余生を楽しむとか、ドラゴンと戦うとか、弟子を取るとか。・・・・・・・・・・・・・・。」
(・・・・・・嘘だのう。)
老師は確信する。この青年はやはり、転生先でなにかをさせようとしている。
「転生したことを話すしてもよいのですかな?」
「話すのはいいけど、誰も信じないよ。世界はそのように出来ているから。」
神が世界を管理している。それを証明する事実の1つである。
「それはなぜ?」
「人生に次があると思うのは、良くないでしょ。」
この言葉に老師も無言で肯いた。次はない、だから全力で懸命に生きろ、足掻け、戦え。
「どんな世界なんですかの?」
「それは行ってからのお楽しみ。」
「儂以外にも条件に会う人物はたくさんおろだろう。だが、なぜ儂なのかのう。」
「・・・・・・たまたま、一番目に老師さんを選んだだけだよ。」
「・・・・・・嘘だのう。」
「・・・・・・・・・・・・・。なにがだい?」
軽い感じでいた百次の表情が真剣なものとなる。
「最初から儂に決めていたのだろう。それに転生先でしてほしいことがあんだろう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
老師の言うとおりである。百次は最初から老師を転生させたかった。
「強くなりたいね。」
一加の言葉を聞いて、自分ができることを探した百次。できることはたった1つ誰かを転生させること。それなら一加にプラスとなる人物を転生させる。今のところ、転生者を見つけるのに私情を入れることは禁止されていない。
一加は月円王国で稽古があったとはいえ、それは2週間程度で、基礎のみ。あとは実践で磨くのが普通のようだ。・・・・・・ふざけるな。いくら勇者の底力と仲間がいるとはいえ、無茶だろ。
そこで探したのが師匠、先生となりえる人物。そして、見つけたのが老師だった。
老師は八極拳をベースにした永闘拳の使い手。永闘拳は文字通り、あらゆる状況でも永らく闘い続けるための武術。それゆえ、素手や氣だけでなく、武具での闘いも取り入れている。
多くの弟子をもった老師は、個々にあった技術、鍛錬を与え、弟子を鍛え上げてきた。弟子の中には特異体質により、炎を発する者。髪を自在に操るものもいたので、未知なる勇者の力にもなんらかの指導はできるだろう。
対人戦こそ主であるが、格闘技未経験の一加にはそれでもプラスになる。一加たち自身の戦力アップの機会に加え、老師自身の戦力も期待できた。
実際は転生者に条件以外でなにかを強制させることはできないので、運頼みのところもある。ただ、老師のもつオーラに一加たちは気づくとは思う。その逆も然り。そこから、なんらかの関係が持てればと考えたのだ。それにある理由から出会えば、子弟、協力関係を持つ可能性は高いと思った。
百次はこれで失敗しても、他の条件でも探すつもりだった。一加のプラスとなる人物を転生させる、その決意は固かった。
転生者の条件でなく、百次の都合で転生させる。
そのことを百次は顔に出さないように、気取られないように努力していた。だがあっさり見破られ、百次は回答に窮していた。
私情で選ぶのは禁じられていないが、なにかを強制させることを禁じられている。
武へは厳しいが、善人や弱者には優しい老師なら、一加のことを知ったなら協力はしてくれる。ノーとも言えないし、言わない。だがそれは性格に付け込んだ強制なのでは?そう捉えられる可能性があるのでは?
その可能性があることから、百次は事実を伏せて話を進めた。
「・・・・・。」
哀願と苦痛の混ざった表情の桃次。
「・・・・・いや、これ無礼だったかの。忘れてくださいな。」
百次の表情を見て老師は追及をやめる。百次の表情から察したもの。誰かを救いたい、力になりたいという強い意志。それと自分自身の無力さへの口惜しさ。詳細は検討もつかないが目の前の青年は神ではなく、自分と同じ人間なのだろう。助けたい人はいるが、自分では救えない。それで儂に目をつけた。だがそれも直接には頼めない。
「・・・・・・で。どうするんだい?」
「ふむ。この年で新しい事に挑めるとは思いもせんでしたのお。」
「ってことは。」
「はい。その転生の機会、有り難く、受け取りましょう。」
こくんと頷く老師。
「そう。わかったよ。じゃあ。ガブリアルよろしく。」
真剣な表情を崩さない百次。隣のガブリアルは頷き、両手を広げた。その動作と同時に老師は光に包まれ、異世界へ旅立った。
百次は息を吐く。老師が行ってくれたことで1つ目の条件はクリアした。あとは巡りあって師弟とることを祈るのみ。
老師は自分の思考をどこまで読んだのか。それは分からない。だが転生する直前、老師は自分に向かって笑った。安心しろっと言っているようだった。
「はい。お疲れさま。っと言っても1人目だけど。」
「・・・・・・・・。どうも。」
「よかったですね。思惑通りに言って。」
「っ・・・・・・・・・・・。」
ガブリアルは微笑み、百次は口を閉ざす。この件は誰にも相談していない。相談して神へ知られたら、いや知られずとも、どう転がるか分からない。天使たちと友好的に接しているとは思っているが、彼女たちはあくまで神の配下であり、神の意志に従う者。
老師への無言の懇願を強制と判断すれば、即座に老師の転生は不可能になる。
ガブリアルは何も聞かず隣に佇んでいたが、全てを見透かしていたのだ。転生自体は実行したが、この発言。表情は微笑んでいるが、その奥には言い知れぬ何かが見える気がする。
この件はぎりぎりセーフなのだろう。続けて実行するのはやめよう。
「ふふ。今日はこれで終わりにします?それとも他の転生者を探します?」
「ん。どの条件にするかを選ぶだけにする。」
「そうですか。」
平常時に戻ったガブリアル。百次も平静を装い、パソコンをいじり出す。