第8話 初めての異世界文明。新たな仲間
ウサギにどつき回され、転がされ…ドロドロの服と殺意をまといながらもようやく街へと辿り着く。
小さな村である。
宿屋や酒場、武器屋に道具屋と最低限の店はあるようだがいかんせん寂れている。
セフィの話では魔物や戦争と言った様々な要因により大きな街がなかなか発展しづらいのだと言う。
「とりあえず宿に行きましょう。それから晩ご飯ですねっ」
確かに腹ペコである…
異世界に来てようやくこちらの世界の文明に触れられるのか…内心興味津々である。
通貨や食文化など一体どのようになっているのだろう。
…………通貨?
ここまで来て初めて気付く。所持品は身につけている鎧と剣、あとはせいぜい肌着だけだ。
まさかの無一文だと今さらながら気づいた。
最低限は身につけててくれよぉ…
宿に食事と確実に通貨の出番だ。まずいどうしよう…
「セフィちゃん…オレ無一文だわ」
カッコつけても仕方ない。正直に言おう。
「あ、大丈夫ですよ。これでも旅には慣れてますから。お金なら多少持ってます」
「いや…でも……」
断りを入れるも選択肢は一つだ。
森に連泊は避けたい。
あったかいご飯と布団…プライドを捨てるだけの価値は充分にある。
「すいません…何とかしてすぐに返しますので」
すると意外な答えが返ってくる。
「ふふっ、すぐに返せますから大丈夫ですよ」
はて?何故そんな事が言い切れるのだろう?
寝てる間に簀巻きにして奴隷商人に売り払うとか???
まさか天使ちゃんに限ってそんな事……
無いと言い切れるか?
異世界歴2日弱のウサギにも勝てない人間が確実に借金返済出来ると断言する理由…他に思い当たらん。
仮に二束三文だとしても人一人を街に連れてくるだけなら大した労力でもないだろう。
考えれば考えるほどマイナス方向に思考が進む。
ここははっきりさせないと危険だ。
「ちょ、ちょっと待って‼︎すぐに返せるってどーゆー事⁉︎」
天使(悪魔?)に問いかける。
すると一瞬キョトンとしてすぐに
「あ〜まだ説明してませんでしたね。ごめんなさい。じゃあ先にそっちから説明しますか」
目的地であった宿屋を通り過ぎてどこかへ向かう。
人身売買組織か?
すぐに目的地に着く。まさかの酒場であった。
「ここです。入ればわかりますから」
そう言いながら扉を開けて中に入っていく。
泥酔させて売りさばくパターンか???
酒場は予想以上に混んでいた。
冒険者の様な格好をして大きな声で話し合うグループ、
カウンターで酔いつぶれている老人、
談笑しながら食事を楽しんでいる夫婦。
そんな店内をセフィは席にも付かず真っ直ぐに奥の掲示板へ近づくと笑顔で振り返り
「これを一緒にやればお金なんてすぐに稼げますよ‼︎」
小さな紙がたくさん貼られている。そこに貼られている内容を読んでみる。
『近くの川に巨大ワニがたくさん住み着いて近づけませ
ん。ワニを出来るだけ沢山退治して下さい。討伐証明:右前足。』
『鎧の素材急募‼︎質や種類は問わないから鉱石を持ってきてくれ。価格:応相談。素材により変動有。』
『修行の相手をしてほしい。必要スキル:雷系スキル。長時間出せる方優遇。』
これは…依頼か。
なるほどつまりオレにギルドの依頼をこなせって言いたいのか。
「困ってる人は酒場に依頼を出すと適任者をこうして募集してくれるんです。依頼人と適任者と酒場の人で面談して金銭とかを決めるんです」
なるほどまんまギルドだな。
「ただよくあるギルドと違うのは全て運営は酒場が個々で行ってるというとこです。本部があるわけでも無いですしそもそも依頼を受けてない酒場もあるようです。」
困った事があったら酒場、っていうのがこの世界の常識なんですよ。と補足を入れてくれる。
将来ギルマスに気に入られて特別クエストを受注できる日は来ないようだ。
だが金の稼ぎ方はわかった。旅人が路銀に困って山賊になる事はなさそうな世界だ。
「ただ一々依頼を受けるより、旅人を襲って金品を奪った方が早いと考える野蛮な人が多くて…山賊を生業とする種族が後を絶たないんです…」
逆だったか…
「なるほど。内容次第ではオレでも稼げるのか…」
一瞬でも天使を疑った自分が恥ずかしい。
罰として明日ウサギに蹴られてこよう。
「わかりました。頑張ってすぐにお返しします」
「私もお手伝いしますので‼︎目指せ億万長者です‼︎」
とびきりの笑顔で提案してくる。
(億万長者は無理ですよ…)
内心ツッコミながらも空腹の限界を迎え腹が鳴る。
「ふふっ…せっかく酒場来たんですから先にご飯にしましょうか」
「す、すみません…お世話になりますぅ」
恐縮しながらも美人と二人きりでの晩餐。浮かれてしまう。前の世界じゃあまりこういう機会なかったなぁ…
席に座りオーダーを頼む。今日の晩飯はあの時から決まっている。
「ウサギの丸焼き一つ」
これだけは…今日だけは譲れないっ‼︎せめて同類を食し溜飲を下げる。下げるどころか丸呑みにしてやる‼︎
「今日はゆっくり休みましょう。明日依頼を受けながら魔力干渉の修行と異世界に戻る為の情報収集をしていきましょう」
大蔵省が提案してくる。イエス以外の答えなどない。
するとふいに
「よぉ、こんなところで何やってんだよ。かわい子ちゃんとデートかぁ?」
いきなり知らない男に話しかけられる。
まぁ知り合いなんぞいるわけないのだが。
「…?あのどちらさまでしょうか???」
天使様が問いかける。
全身鎧を着込み立派な槍を抱えた狼人間。フリーの傭兵といった感じだ。
「………???」
何故かオレに訝しげな視線を向けてくる。
顔に何かついてるだろうか?
「まぁいいや!オレの名はラルフ。訳あって旅をしてるんだ。あんたらも旅人かい?」
「あ、はい…先ほどこの街に立ち寄りまして。しばらくはここを拠点に金策と修行をしようと考えてます」
そこまで答えなくてもいいんじゃないか?
するとラルフは意外な提案をしてくる。
「なるほど、ちょうどオレも金欠気味でね。そろそろ依頼を受けようかと思ってたとこなんだ。良かったらご一緒させてくれよ。戦いはオレに任せてくれ」
確かに槍も鎧も手入れが行き届いているように見える。歴戦の勇士と言われれば納得だ。勿論ただの勘だが。
「悠矢さんどうしましょう。旅をしていると期間限定でパーティを組むのはよくある事ですが…ご判断はお任せしますよ」
どちらでもいいのだろう。ではどうするか…
「一つ聞きたいんだがなんでオレ達なんですか?どっからどう見ても強そうなパーティではないはずですが」
するとラルフは笑いながら答えた。
「ハハハッ‼︎面白い事聞くなアンタ‼︎強そうなヤツについてったらそいつが敵をやっつけちまうだろ⁉︎そんなのなんの楽しみもねぇじゃんか。その点アンタらは前衛職が足りないだろ?後衛の術士のねぇちゃんと遊撃剣士のにいちゃんだ。確実に前衛の盾役が必要だろ」
何もわかってないなこのワンコロは。
オレ達は最強無敵の美少女天使とウサギ以下の最弱ニートのデコボココンビだ……自分で言ってて虚しい。
「足は引っ張らねぇから…仲間に入れちゃもらえねぇか?」
何故だろう…強い意志を感じる。ただ依頼を受けて金を稼ぐだけならオレ達じゃなくてもいいような気がするが…恐らく訳ありなんだろう。旅は道連れとも言うし。
「セフィちゃん、オレは構わないですよ。むしろオレがこんなだから戦力強化は喜ばしい事かと」
「わかりました。ではラルフさんこれから宜しくお願いします」
「おぉ、そうか‼︎ありがてぇ‼︎んじゃさっそく…」
ラルフは椅子に座ると酒を3つ頼む。いやいやオレは飲めないよ…と断るも
「パーティ結成するなら盃交わすのが流儀だ‼︎一口だけでも構わねぇよ。仲間と同じ酒を飲む。これがパーティを組んだら最初にやる事だ」
なるほどそういうものか…飲めないからと断るのは流石に空気読めてないか。
「じゃあ、パーティ結成に…かんぱ〜い‼︎」
ビールの様なものが並々と注がれた木製のジョッキを3人で掲げる。瞬く間に飲み干すラルフ。
「ぷはぁ〜っ‼︎サイコーだなオイ‼︎」
途端にご機嫌だ。正にガサツな傭兵って感じだ。
セフィも普通に談笑している。ラルフみたいなヤツと旅をした事もあるんだろう。
ふいにラルフが問いかけてくる。
「そういやさっき金策と修行とか言ってたが…修行ってどういう事だ???」
ラルフが問いかけてくる。
昨日転生したんです、とバカ正直に答えいいのかわからず答えあぐねているとセフィが
「私も悠矢さんも転生者なんです。私は2年程前ですが悠矢さんは昨日この世界に転生してきたばかりなんです。転生したばかりで右も左もわからない気持ちはよくわかるのでしばらく一緒に旅をする事にしたんです」
あ、転生ってバラしていいんだ。
「そっかそいつぁ大変だ‼︎つまり魔力干渉も碌にできないから依頼を受けて金と経験値両方手に入れようって魂胆か」
悔しいがその通りである。その通りだが…悔しいっ‼︎
内心ハンカチを噛みしめキーッとやってると
「ですが悠矢さんは見所がありますよ。場数さえ踏めば充分な戦力になるはずです。」
「なるほど…だが見たところ嬢ちゃんは魔力干渉は教えられても身体強化は得意じゃないだろ」
「仰る通りです。出来なくはないのですがあまり得意ではなくて…」
「まぁ普通そうだよな。そんな可愛い顔で敵殴り殺してたら引くわ。よし‼︎オレが身体強化を教えてやる」
なんだかよくわからないが師匠が二人に増えた様だ。
だが悪くない。出来る事は多いに越した事はない。
「二人ともよろしくお願いします。少しでも力になれるように頑張るよ」
新たな仲間が増えた。明日からは忙しくなりそうだ‼︎
酒が回った頭で少し浮かれながら前向きな事を考える。
地獄の修行が待っているとも知らずに…
新メンバーラルフ。熱血漢のイカしたワンワン。新たなメンバーを加えまだまだ旅は続きます。応援宜しくお願いします。