第6話 特訓。スキルマスターへの道
ゆっくりと目を覚ます。
徐々に意識が戻るが全身の気怠さは消えない。
酸欠のような…もしくは二日酔いのようなイメージだろうか…
「大丈夫ですか…?すみません先に言えばよかったですね。まさかあんなに全力で消費するとは思わなくて…」
頭上からセフィが語りかけてくる。
なぜにそんな位置から話しかけてくるですか…?
徐々に置かれている状況を理解する。
後頭部に感じる柔らかな感触、女性特有の甘い香り、微かに頭部に触れるこれまた柔らかな感触…
天使ちゃんの膝枕かっこ天使の羽の木陰付きかっことじ、である。
既に意識は完全覚醒、だがこの至福の時を手放すにはあまりにも…そうあまりにも惜しい…っ‼︎
瞬時に判断しまだ回復してないふりをする。
だが自身の足りない演技力により至福の時はそう長くは続かない。
そっと天使の手が頬に触れる。
ほのかに熱を帯びたその手が徐々に……熱くなる。
あまりの熱さに耐えきれず、
「アチィッ‼︎」
思わず飛び起きる。
「もうっ、とっくに元気じゃないですかっ‼︎凄いエッチな顔してましたよ…」
スキル『ポーカーフェイス』を会得したい…
「すみません。調子に乗りました…」
頬がケロイド状になってないか確かめながら起き上がる。流石にいつまでも遊んでいられない。
いい加減本題に入ろう。
「ところで…これからどうしましょう?」
セフィに尋ねる。何をすればいいのかさっぱりだ。
「そうですね…このまま川沿いに進むと少し大きな街があります。そこを活動の拠点にしてこの世界で生き抜く力を身につけながら元の世界に戻る方法を探しましょう。」
「そういえば、セフィちゃんはこの世界でもう2年も過ごしているんだよね?元の世界に戻る手がかりとかって何か見つけられたんですか?」
何気なく聞いたつもりだったが…浅はかだった。
天使の笑顔が急激に曇る。手がかりがあるんならもっと早いタイミングで打ち明けてくるはずだろう。
この2年手がかりは全くない状態。だから彼女から先ほどの提案があったのは少し考えれば思いつく。
「ゴメン無神経な事聞いて…ひとまず時間はあるんだし僅かな手がかりでもいいから一緒に探そう」
努めて明るく提案する。
天使ちゃんも空気を読んでくれたのか
「そうですよね!一緒に頑張りましょう‼︎」
と明るく答えてくれた。
陰りのある笑顔を浮かべながらも努めて明るく。
この子の為にも元の世界に戻る為の手がかりを見つけなくては…
確かに検討もつかない状況ではとにかく行動を起こすしかないのかもしれない。
「でもその前に…朝ごはんにしましょう」
そういや飛行機乗る前に飯食って以来何も口にしてないな…
つーかそれどころじゃなかったし。
「そうですね。確かに腹減ったな…何か探してみましょうか」
「さっき川の近くで果物が生っている木を見つけましたよ。多分食べれる果物だと思います」
……
………
とりあえず見つけた果物で空腹を満たす。
甘くて美味しかったけど毒とかないよな…
天使は毒無効でオレだけ猛毒に侵されるとかそんなオチはないよな…
ひとまず腹ごなしも済んだ。だがいつまでもこんな生活を続けるわけには当然いかない。
先ほどのセフィの提案通り街へ向かう事にする。
「ただ歩くだけじゃなくて無理しない程度にスキルの練習をしながら行きましょう」
なるほどごもっとも。
「スキルをゆっくり放出してまずは使う事に慣れる事です。スポーツとかと同じで日々の積み重ねが結果に繋がるんです。千里の道も一歩からですよっ‼︎」
ならば見せてやろう。これがその第一歩だ。
自分の身体をスキルで覆ってみる。よくわからないので辛いものを食べて全身から汗が噴き出る様なイメージを想像してみる。
宇宙服の様な分厚い服で全身覆われてる感覚を覚える。
なんだか動きづらいな…多分こういう事じゃない。
今度は風を纏うイメージにしよう。
………心なしか軽くなった気がする。
身体が軽いと感じる反面、集中力が必要となる。
なるほどこれは慣れが必要だ。スポーツしながら勉強する感じか…?
まだ大した距離は来てない。肉体的な疲労は全くないが気を抜くとボーッとしてしまう…
少し休憩するか。スキル放出を止める。
「徐々に慣らしていかないとさっきみたいに充電切れで意識を失っちゃいますからね。あせらずゆっくりです」
天使からの啓示だ。
言われなくてもわかっている…だが悠矢は頭では理解しているが焦らずにはいられなかった。
これを使いこなせれば昨日みたいにいざ戦闘となった時に自分も一緒に戦える。
守られる、足を引っ張るという事がわかっているからこそ少しでも早く力になりたかった。
旅に支障が出るギリギリの所までスキルを使用し続ける。休憩してある程度まで回復したらまた使う。
スキル使用→休憩…をひたすら繰り返した。
いつのまにかかなりの距離を移動している。
悠矢は全く気づいていなかったが実はこれが最も効率な修行法であった。常に限界までスキルを使い続ける事により限界値を底上げするのだ。本来であれば敵に襲われない道場の様な場所での修行法、セフィはもちろん理解していたがあえてその話はせずに『焦らずゆっくり』と言ったのだ。危険な外で行う方法では決してない。
(無理しないように見ていなきゃ…いくら手からだけのスキルとはいえ無理したらすぐにまた気絶しちゃう…)
だがセフィもまた気づいていなかった。
そもそもお互いの前提が『噛み合って』いない事に。
『スキルを大気に干渉させる際、全身を使って干渉する必要はない』
火を起こしたり雷を出したりといった事をするのに全身を使って行うなど非効率以外の何者でもないのだ。
だがこの世界の常識は悠矢には当てはまらなかった。
全身を使っての修行の方が効率がいいだろうと深く考えずに高度な事をしている事に全く気づいていない。
休み休みスキルの練習する悠矢を見てセフィは内心、
(きっかけを得てスキルが使用できるようになったのに上達が遅すぎる…あまりにもおぼつかない。きっかけを与えれば誰でもある程度まではすぐ出来るようになるのに…)
だがそれを伝える必要などない。努力する人間の足を引っ張る事をしても何も生まれない。
倒れないようにそっと見守ろうと決め自分からは口出ししない事に決める。
これが後に大きな変化を生む事になるとはまだ誰も気付いていない…
主人公チート覚醒が始まる…かも
応援宜しくお願いします‼︎