第5話 天使ちゃん。水浴び。命を賭ける時
(夢じゃなかったか…)
目覚めると昨日と同じ森の中。
悠矢は目覚めたら知ってる天井である事を期待したがそうは問屋が卸さない。
残念ながら昨夜と同じ場所であった。
やはりこの世界で生きていくしかないのか…
半ば諦めの境地でふと天使ちゃんのいた場所を見る。
眠りにつくまでいたはずの場所にセフィがいない。
どこに行ったのか?まさか自分を置いて出発したなんて事はないだろうが知らない土地で知り合えた人と別れてしまったのかと思うと急に不安になった。
(近くにいるのかな…?)
近くに川があった事を思い出し見に行く事にする。
顔を洗っているのかもしれない。もしお花摘みなら気づかないふりをして戻るのがマナー、全く期待はしていない、そんな趣味はない、でも偶然遭遇してしまったのなら仕方ない…あくまで事故…
下衆な期待をしつつ川へと向かう。
川辺の岩に白いマントと鎖帷子を見つける。
途端に跳ね上がる鼓動、転生早々にして最大のイベントが訪れる。
(事故なら仕方ない…偶然ですから)
身勝手な言い訳を内心言い放ち気配を消す。
初獲得スキル『隠密』
素人とは思えない完璧な気配遮断であった。
草むらに隠れ川の中ほどで水浴びする人物を見つける。
朝日に煌めく水面よりも美しい長い金髪。彫刻の様な曲線美…ありとあらゆる芸術品を遥かに凌駕する『美』がそこにあった。
だが悠矢にはそれよりも目を奪われたものがあった。
背中に生え揃う純白の羽、まさしく天使であった。
時折細かく震え水を弾く様は優雅な白鳥を思わせる。
気づけば気配を消すのも忘れ見入ってしまった。
そしてそれが命取りとなる。
「誰っ⁉︎」
言うが早いか閃光が走る。
思わず身をかがめた頭上ギリギリを熱戦が一瞬で通過する。咄嗟に交わす事が出来たのは運が良かっただけであろう。日頃どころかリアルタイムで行いが悪いにもかかわらず九死に一生を得る事が出来たのは、残りの人生の運全てを使い切ったのではないかと錯覚する。
「ちょ、ちょっと悠矢さん‼︎何してるんですかそんな所で‼︎」
天使がご立腹である。可愛い。
死にかけた事も忘れ呑気な事を考えるがすぐに弁明を開始する
「ゴメンゴメン…起きたら姿が見えなかったから探しちゃったんだよ」
「すいません。わざわざ起こすのも悪いかと思って…すぐに出ますのでさっきの場所で待っててもらえますか?」
優しい天使である。覗きは不問にしてくれた様だ。
すかさず調子に乗る。
「いや熊でも出たら大変だよ。ここで見張ってるから気にせず着替えてよ」
瞬間、閃光が走ったかと思うとすぐ脇の大岩が消滅する。恐ろしい天使である。調子に乗った事を後悔する。
「二回は言いませんよ…?」
すぐさまUターンし焚き火の場所まで逃げ帰る。
「流石に調子に乗りすぎた…転生1日でゲームオーバーになるとこだった…」
そういえば…この世界で死亡した場合、元の世界にまた転生する事はあり得るのだろうか???
流石に自分で試す勇気はないが元の世界に戻る方法は『転生』しかないのでは…?
確証はもちろんないが可能性としてはあり得る…か?
機会があれば調べてみたい。
昨晩と同様に火を起こす練習をしながらそんな事を考える。火はつかない。
試行錯誤しているとセフィが戻ってくる。濡れた髪がセクシーだ。
「次あんな事したら本気で当てますよ…???」
怒ってても可愛い。もちろんそんな事は口にはしない。
「大変申し訳ございません。あまりの美しさに魔がさしました」
ここは素直に謝るが吉。さりげなく褒めておく。
案の定、真っ赤になりわちゃわちゃと手を振りながら
「い、いやそんな…頭をあげて下さい‼︎私の方こそもっと考えて水浴びするべきでした‼︎昨日返り血を浴びたので早くお風呂にはいりたかったのですがそうもいかず…申し訳ありません‼︎」
ええ子や。ガチ天使や。
……天使?そういえば…
「ゴメン見ちゃったからには聞かないわけにいかないんだけど…その背中の羽って…?」
恐る恐る聞いてみる。実は鳩人間なんですとか言われたらどうしよう。人と鳩は付き合えるのか???
「あ、そういえばお話してませんでしたね。私は悠矢さんとは違い人族ではありません。私は『神族』です」
まさかのガチ天使だとっ⁉︎ある意味転生よりも驚いた。
セフィははにかみながら羽を広げてゆっくりと羽ばたいてみせる。
広げるとかなり大きい。
2メートルぐらいはあるだろう。
昨日はマントで隠していたから気づかなかったのか。
「スゲェ…ホントに天使だったのか…」
思わず本音が口から出る。
真っ赤になりながらセフィが説明してくれる。
「この世界には様々な種族がいる事はお話しましたよね。人族、魔族、獣族、亜人族、神族と大きく5種類に分けられます。悠矢さんは最も多い人族、私は最も少ない神族になります。」
ガチ天使曰く、種族ごとにスキルにも特徴が見られるという。
スキルとは世界に干渉し火を起こしたり風を生み出したりといったいわゆる『奇跡』の様な物から、単純な身体強化までありとあらゆる可能性を秘めているという。
魚人間や鳥人間の様な特徴ある種族の事は昨日教えてもらったが基本として獣族は個性が強いらしい。
身体強化のスキルしか使えない者も多いそうだ。
人族はオールマイティな種族、汎用性が高い分初期能力としては最弱。努力して研鑽を積まなければ他種族には及ばないのだそうだ。
魔族は逆に魔術特化、生まれつき干渉スキルの使用に長けているそうだ。身体能力は獣族には到底及ばないらしい。
亜人族も種族によって様々らしい。是非ともドワーフやエルフやサキュバスにお会いしたい。なんならドワーフはお会いできなくても構わない。
そして神族は…ぶっちゃけ最強らしい。
スキルの扱いは多種族より遥かに上手いらしい。単純な数が少ない為、一大勢力とはならないらしいが全種族の平均を単純に比べると神族の圧勝らしい。
…何それオレも神族が良かった。異世界転生なら異世界っぽさが欲しい。
でも羽にダニとかわくのかな?メンテ大変そう…
人族…最も多く平凡な種族。能力は努力次第
魔族…スキルの扱いは上手いが身体能力は低め
獣族…多種多様。スキルも生態により大きく異なる
亜人族…獣族同様、種族毎に異なる
神族…数は少ないがぶっちゃけ最強
ざっとまとめるとこんなとこか。
一長一短…なのかな?
「ところで…やっぱりまだ火はつけられませんか?」
「さっきから昨日の続きをやってるんですが…さっぱりです」
これは中身の『悠矢』の問題なのか?この体が実はポンコツなのか?正に火の無い所に煙は立たない状態である
「一度コツを掴めば後は経験を積むだけなんです。ちょっとお手伝いしますね」
薪に向けて手をかざしているオレの手に自分の手を重ねてくる。不覚にもドキッとしてしまう。
(手ちっちゃくて柔らかいなぁ…)
すかさず脱線。だがすぐに違和感に気付く。
(手から…なんか出てる???)
違和感は明らかな感覚へと変わる。
例えるならホースで水を撒いている時に手の平に水の流れを感じるあの感覚に近いかもしれない。
「体内の魔力を放出して大気の熱に干渉させるんです。今は私が放出する魔力に引っ張られて悠矢さんの魔力も放出されているんです」
天使ちゃんがそっと手を離す。
いつもならもっと繋いでいたかったなどと邪な感想が真っ先に思い浮かぶが今は違う。
明らかに自分の体から何かが出ているのがわかる。
百聞は一見に如かずだ。
これが『スキル』
外部への干渉という意味を何となく理解してきた。
熱に干渉すれば火が起き水分に干渉すれば水を出す事が出来るのか。
凄い‼︎万能じゃないか‼︎文明の利器なんぞ不要である。
…だが勿論万能ではない。当然ながら体内から放出する為限度がある。
調子に乗って熱を与え続ける。既に充分な火が起きている。不意に目眩というか酸欠に近い体調不良を感じた。
「あまり使いすぎると欠乏症になりますよ」
もっと早く言ってよ…当然ながら調整など出来るわけもなく全力で火遊びを続けた結果、意識をあっさりと手放した………
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