#9
ゼウスがルイーゼの部屋から出て行ったあと、彼女はあるとんでもないことを思いついた。
自分がリルに嫉妬しているならば、売り出してしまえばいい。
最悪な場面は彼女を殺してしまえば――。
リルを由緒正しきオルガント家から速やかに追放し、娼婦になった方が彼女はもちろん、ルイーゼ自身も幸せだと思っていた。
「人身売買にしようかしら? それとも……」
彼女は机の中から一枚の紙を取り出す。
その紙は『オークション出展商品受付中!』と書かれているものであるが、通常のオークションとは異なっていた。
通常のオークションは美しい絵画や高級品などが出典されているが、ルイーゼが出展しようとしているオークションは虫や鳥のような動物はもちろんのこと、訳ありの人間が出典されていることもある。
よって、彼女は実の妹であるリルを闇オークションで売り出してしまおうと思っているに違いない。
「これならば……オルガント家はみんな幸せになりますわ。もし、売れ残ってしまったならば、娼婦としての人生を送らせることも可能ですし! さて、明日にも実行させていただきましょう」
ルイーゼは幼いながらもすでにリルのことを実の妹だと思わなくなっていた。
まるで、表社会であるオルガント家の令嬢から裏社会へ突き落とすかのように――。
◇◆◇
翌日――。
「「いただきます」」
カチャカチャとフォークとナイフの音を立てながら、家族揃って食事を取っている。
「リル。本日はわたくしと一緒に街へ出かけましょう」
「いいのですか?」
「ええ。もちろんよ」
「あらあら、ルイーゼからリルを誘うなんて珍しいわね?」
「たまにはいいでしょう?」
「そうだな。リルー今日はめいっぱい楽しんでこいよー!」
「はい!」
ルイーゼはリルを連れて街に出かけようと誘った。
彼女は不審そうに訊いてみるが、返事はいたって普通に答えていたため、満面の笑みを浮かべている。
その様子をフィンとイリアはルイーゼからリルを誘うなんて珍しいと思っていた。
「…………リル、止めておけ」
「ゼウスお兄様?」
「あの女はリルを変なことに巻き込ませるに違いない」
穏やかな刻が流れていたやさき、先ほどまで静かに彼女らの話を聞いていたゼウスは少し警戒したような口調でリルを止めようとする。
それを耳にし、目の前で怯えていた彼女を横目にルイーゼは彼を睨みつけた。
「わたくしは絶対にリルに変なことなどをやりませんわ!」
「それはどうかなぁ?」
ゼウスは彼女の顔を覗き込むように言い放つ。
「ほらほら。ゼウスお坊っちゃまにルイーゼお嬢様。止めなさい」
「「……はーい……」」
「珍しく穏やかな朝食だったのに、いつも通りになってしまったな……」
「そうね」
カインは喧嘩になりかけている二人に注意をし、素直に返事をした。
三人の両親は彼らは相変わらずだと思い、ほんの一瞬だけ肩を竦め、朝食を再開した。
2019/01/19 本投稿