表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

#8

 リルに対して苛立つ気持ちを(こら)えながら、自室に着いたルイーゼは速やかに扉の鍵をかけた。

 彼女は椅子にちょこんと置いてあるクマのぬいぐるみに手に取る。

 そのぬいぐるみはルイーゼが三歳の誕生日祝いとして両親であるイリアとフィンからもらったもの。


「お兄様もお父様も今となってはわたくしよりもリルのことが大切ですのね……」


 彼女は左手で壁をその耳を掴みつつ、じっと睨みつける。

 ルイーゼはぬいぐるみに向けて拳をつきだした。


「なぜ、わたくしは愛されませんの!?」


 ドンッドンッと大きな音を立てる部屋の壁。

 幸いにも彼女の部屋の周囲には誰もおらず、執事などの使用人や両親の目につくことはなかった。


「……なぜ……なぜ……!?」


 今のルイーゼにとってリルは「()()()()()」で「()()()()()」――。

 しかし、それに対して彼女(リル)はルイーゼのことを姉のように慕い、姉妹の関係を築きたいと望んでいる。


 よって、二人は全く異なる心境であるのだ。


「っつ……痛い……これで少しでもわたくしの気が晴れるのならば……!」


 彼女はひたすらクマのぬいぐるみを相手に拳を振る。

 ルイーゼの気が晴れるその時まで――。



 ◇◆◇



 同じ頃、ゼウスは自室に向かって歩いていた。


「ん? どこからだ?」


 そこに行くには必然的にルイーゼの部屋を通らなければ、辿り着くことができない。


「ん……もしかしたら、あいつか……?」


 彼女の部屋を通りかかった彼は部屋の中が騒がしいことに気づき、扉を叩いた。


「ルイーゼ、ルイーゼ!?」

「そ、その声はゼウスお兄様……! ついに気づかれてしまいましたわ」


 ルイーゼはふと右手を見ると、指の間接部が赤くなっている。


「ど、どうしましょう……」

「おい、中にいるのだろう!?」

「え、ええ……」

「だったら、早くドアを開けろ」

「……はい……」


 彼女は焦りを覚えつつ、しつこく扉を叩いてくるゼウスに適当に相槌(あいづち)を打ちながら、鍵と扉を開けた。


「貴様、さっきまで何をしていたのか?」

「………………」

「ったく、右手がこんなになるまでさ……」

「………………」


 彼はルイーゼの右手を見て問いかけるが、沈黙を貫こうとする。

 ゼウスは「……だんまりか?」と悪態をつきながらこう続けた。


「もしかしたら、リルのことでまだ嫉妬しているのか?」

「う、うるさいですわ!」

「リルの姉のくせに……」

「確かにそうではありますが……ところで……」

「なんだ?」

「なぜ、あなたはわたくしではなく、出来損ない(リル)がいいのですの?」

「さっきも言っただろう? 俺は貴様よりもリルの方が数倍好きだと言うことを!」


 彼女は彼に先ほどと同じ質問をするが、同じ回答で返される。

 ルイーゼはすでにその答えは分かっていてるにも関わらず、わざと二度も質問したのだ。


「お兄様の()の気持ちは分かりましたわ」

「質問はそれだけか?」

「……はい……」

「それと、自分の部屋の壁を叩くことはやめてくれ。うるさいし、 周りのことを少し考えろ」


 ゼウスにこう言われた彼女は軽く頬を膨らませる。

 そのあと、彼は「じゃあな」と手をひらひらと振りながらルイーゼの部屋をあとにした。

2018/05/20 本投稿

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ