#5
ルイーゼはリルに嫉妬心を抱き始め、それをぶつけようと決意したあとの年月が流れるのは早く、その頃も彼女ら姉妹の溝は深まるばかりだった。
そんな二人を見て、不審に思ったゼウスは両親のところに駆けつける。
「お父様、お母様……」
「どうした、ゼウス?」
「悩みごとかな?」
「ええ。少しお話が……」
彼は彼らにそのことを相談してみるが、ゼウスはもちろんのこと、フィンやイリアもなぜ二人は仲がよくないのかは不明のまま。
一応、リル達には専属の執事とメイドがついているが、彼らも「分からないですね……」と答えるだけだった。
◇◆◇
さらに、数年後――。
ルイーゼは八歳になり、リルは五歳になり、あっという間に成長していた。
彼女は兄妹であるゼウスやルイーゼより少しだけ成長は遅れていたが、少しずつ可愛らしい少女になっていった。
そして、迎えたリルの五回目の誕生日――。
「ゼウスお兄様、ルイーゼお姉様。おはようございます」
「リル、おはよう!」
「おはようございます。そして、お誕生日おめでとうございます」
彼女はゼウスとルイーゼに挨拶をする。
彼はいつも通りの元気のよい挨拶を返したのにも関わらず、一方の彼女は素っ気ない塩対応だった。
そのため、リルは怯えてしまい、ゼウスの後ろに隠れる。
「ルイーゼ、君はかなり前からリルには冷たいが、何かあったのか?」
彼はいつも疑問に思っていたことをルイーゼに問いかける。
彼女は待ちわびたように、「ええ」と答えた。
「お兄様はリルを見て、何も思いませんの?」
「リルは普通の女の子だ! 何も障害がなく、ただ成長に個人差があるだけでそれらが何か問題でもあるのか!?」
「彼女はオルガント家の中で成長の遅い「出来損ない」ですのよ? あなたもリルのことを「いらない子」だと捉えなければなりませんわ。そのことに対していかがお考えなのかしら?」
「貴様、何を考えてる!? 僕はリルのことを出来損ないやいらない子などと思っていない!」
ルイーゼは彼に問いかける。
ゼウスは背後にしがみついているリルを庇いながら、彼女の質問に答えていく。
彼は途中から苛立ちを覚え始め、徐々に口調を荒らげていった。
「あなたは実の妹に「貴様」と仰るのですね? 笑ってしまいますわ」
「どうぞお好きに」
「それとお兄様はいつもリルのことを庇うのですね? わたくしは彼女を溺愛している今のお兄様が大嫌いですわ! やっ……」
「ふっ……俺も今のルイーゼのことは嫌いだ。貴様は死んでほしいくらい嫌いだ!」
「……ゼウス……お兄様……」
ゼウスはルイーゼに対して鼻で笑い、彼女の首を両手で数秒ほど締める。
この時、今までの穏やかな生活と家族の関係が壊れ始めた瞬間だった――。
2017/11/28 本投稿