#3
リルが生まれてからオルガント家は穏やかで賑やかになった。
彼女に母乳を与え終え、落ち着いた頃にゼウスとルイーゼがフィンとともに部屋にやってくる。
彼らは彼女の頬を両方から人差し指で優しくツンツンと突っつき始めた。
「リルー、パパだぞー」
「ママよー」
「お兄ちゃんだぞー!」
「お姉さんよー」
イリアはリルが落ち着いたと判断し、彼女をベビーベッドの上に横にさせる。
家族全員で横になっているリルを眺めており、彼女はキャッキャッと笑顔を見せていた。
それを見ているだけで彼らの頬が綻ぶ。
「リルが笑っていますわ!」
「可愛いよなー」
「あなたたちも赤ちゃんだった頃はそうだったのよ?」
「「本当?」」
「ええ、本当よ」
「お前たちがお兄さん、お姉さんになる前は俺がツンツンしてたんだがな」
フィンが自信たっぷりの表情をしながら話している時、ルイーゼはリルがゴロンとうつ伏せになった。
彼女のはじめての寝返りだ。
「お父様、お母様! リルが……」
「「リルが……?」」
「わたくしは見ましたの! リルのはじめての寝返りの瞬間を!」
「見たかったなぁ……リル、もう一度ゴロンとしてくれー」
ルイーゼ以外の家族は彼女に再度、寝返りを打つように懇願するが、リルは期待に応えられずに泣き始めてしまう。
「あー……泣いちゃったわね。よいしょっと……」
イリアはリルを抱き上げ、よしよしとあやすのであった。
◇◆◇
あれから数ヶ月が経ち、リルは座位が取れるようになり、単語で話すようになった。
最初は家族や使用人達に対してはすべて「ママ」と呼ぶことが多くなり、彼らは反応に困ることがあったが、少しずつイリアがママ、フィンがパパ、ゼウスがお兄ちゃん、ルイーゼがお姉ちゃんと区別をつけるようにしていくようにしていく。
「リル、ぼくは?」
ゼウスがリルに問いかけると、「にーに」と返してきた。
彼は「よしよし、偉いぞ」と彼女の頭を撫で、エヘヘと微笑む。
その時、第二子で長女であるルイーゼはリルを溺愛しているフィンとイリア、ゼウスの四人に少しずつ嫉妬心を抱き始めていた。
「わたくしではなくて、なぜリルばかりですの?」
幼いながらにして彼女の中に芽生え始めた嫉妬心。
リルが成長していくうちに、ルイーゼは徐々にその刃を向け始めようとしていた――。
2017/11/26 本投稿