#20
「嫌だ、嫌だ! 痛い! 離して!」
リルの拒絶する声が路地裏に響き渡る。
その声にも聞く耳を持たなくなり、手に力を入れて連れ回しているルイーゼ。
そうこうしている間にオークション会場に到着してしまった。
その会場には多くの客の姿がある。
出展者らしき人物は謎の工作品、怪しい動物、人体模型やお手製のガラクタなどを持ち込んでいる。
一方の落札者らしき人物は出展者の持っているものを見て、早くも品定めを始めていた。
見るからにオークション会場は騒がしい。
入口から少し離れたところにカウンターらしきところがあり、そこで受付を済ませ、出展者か落札者かに別れており、どちらも行列ができている。
その他にはじめてのお客様用の行列があった。
「いらっしゃいませー。おやおや、可愛らしいお客様ですねぇ」
「こんにちは」
受付で奇妙な口調で話す女性に話しかけられる。
何も動じずに挨拶するルイーゼだが、リルは泣いていた。
「ここは泣かなくても怖くないから安心してくださいねぇー」
「ほら、リル。泣かないの!」
受付嬢が優しく泣いているリルに声をかけるが、ルイーゼは怒号を出す。
彼女は思い出したように「あっ、そうだ!」と口にした。
「お嬢ちゃん達は出展者ですかぁ? それとも落札者ですかぁ?」
おそらく幼き子達の姿を見て癒されていたのだろう。
受付嬢は我にかえって本業モードに切り替えた。
「はじめてなのですが……」
「はじめてのお客様はあちらに並んでくださいねぇ」
「ありがとうございます。ごきげんよう」
「ごきげんようー」
二人は詳しい説明を聞くために、はじめてのお客様用の行列に並んだ。
「さっきのお嬢ちゃん達は何かを出展したり、落札したりするんでしょうかねぇ……」
彼女はルイーゼ達を見てニヤニヤしながらその様子を眺めている。
彼女らはその視線を気にせずに並んで待っていた。
◇◆◇
ルイーゼ達を追ってきたクロウはリルの声を頼りにオークション会場まで到着する。
「ここまで追ってしまった……あの少女はどこにいる?」
彼は周囲を見回すと受付嬢が暇そうにしていた。
彼女は気づき、クロウ声をかける。
「いらっしゃいませー。出展者ですかぁ? それとも落札者ですかぁ?」
「ほう……私ははじめての者でして、ここはどういうシステムになっている?」
「はじめましての方ですかぁ。なら、あちらの小さい女の子のあとに並んでくださいましー」
「そこで説明を受けられるのだな?」
「そ、そんな恐ろしい顔をしなくとも懇切丁寧にご教授いたしますのでー」
「大変申し訳ない。そうさせていただく」
「で、では、あちらへどうぞー」
「ありがとう」
彼自身はオークションの出展や落札方法といったものには興味がない。
受付嬢を脅しかけてしまったが、説明だけは聞いておこうと――。
クロウはそのようなことより、早急にリルをこのような場所から連れ出してやりたいと思っていた。
「あ、先ほどの!」
「またお会いしましたね。あなたはどういったご用で?」
「わたくしは出展しにきましたの。それが何か?」
「ほう……私は物によるが、それを落札させていただこう」
ルイーゼはませた少女の表情から幼いながらにして妖艶な表情に変える。
一方の彼は紳士的な男性を演じることを止め、本業のマフィア首領に切り替えた。
2025/09/28 本投稿




