#2
「もうそろそろイリア様の三人目の赤子が生まれてもおかしくないだろう?」
「そうね……」
「男の子かな? 女の子かな?」
「奥様のことですから、男の子でしたら少し落ち着きのある子に、女の子でしたらルイーゼ様みたいに可愛らしい少女になると思いますよ。これはあくまでも私の想像ですから」
「現実は分からないからねぇ……」
「ところで、ここが騒がしいから分かりづらいと思うが、微かに産声が聞こえないか?」
「聞こえないですが……」
「気のせいよー」
イリアの部屋の前にある廊下にはそれぞれの専属の執事やメイドなどの使用人達が作業をする手を止めながら、代わる代わる彼女の部屋に立ち寄り、そわそわと落ち着きがない様子で赤子の誕生を待っている。
部屋の前では彼らのざわめきで少し騒がしかったので、赤子の産声が一部にしか聞こえなかった。
イリアの出産の立ち合いを終えたフィンは安堵の表情を浮かべながら、部屋から出てくる。
「だ、旦那様!」
「いつの間に!?」
「いつ赤ちゃんが生まれたのですか?」
「ほら見ろ! 俺が言ったことは当たってたんだよ!」
「……全く、君達は……妻のイリアは先ほど無事に女の子を生むことができました」
彼が部屋から出た途端に使用人達の質問攻めに合うが、彼らの質問の答えを呆れながら一言で片付ける。
そのことを知った使用人達の表情が晴れ、フィンに「おめでとうございます!」と一斉に最敬礼と盛大な拍手で祝った。
「さて、質疑応答に入らさせていただこうか。ただし、一斉に質問されても俺が困るから一人ずつ質問してほしい」
彼は彼らの訊きたいことはたくさんあるだろうと思い、質問コーナーを設ける。
何人かの使用人達は手を上げてから質問した方がいいのか悩んだあげく、一人の執筆が挙手をした。
「ところで、奥様と赤子は?」
「イリアとリルは母子ともに健康だ」
「本当ですか?」
「ああ」
「ご無事でなりよりです」
フィンは「ありがとう」と言い、他に質問があるかどうかを訊いてみる。
後ろの方から小柄なメイドが彼に気づいてもらえるよう、跳び跳ねながら挙手をした。
フィンが気づいてくれたのか、「どうぞ」と彼女に質問するよう促す。
「あ、あの……先ほど話されていた「リル」は誰が名づけたのですか?」
「「リル」はイリアがつけた名前だ。彼女は「三人目が女の子だったら「リル」と名づけたい」と生まれる数日くらい前に話していたからな。俺も候補はいくつかあったけれど、彼女の意見を尊重したのさ」
そのメイドが恥ずかしそうに顔を赤くしながら彼に「旦那様はお優しいのですね?」 と問うと、「そうかもしれないな」と苦笑を浮かべながら答えた。
「さて、今日から昼夜問わずかなり忙しくなるから、気を引き締めて行こう!」
フィンはパンっと手を叩き、使用人達にこう告げると彼らは「はい!」と元気よく返事をするのであった。
2017/11/26 本投稿