#19
「ええ、そうよ! わたくしはお父様やお母様、お兄様に愛されているあなたに嫉妬したわ! もう家族と一緒にいられる時間は二度とないと思いなさい!」
「な、何故ですか!?」
「まだ分かりませんの? あなたは捨てられる身であり、売られる身。もう誰かに愛される身ではありませんの! お父様やお母様に愛されるべき人間はわたくしとお兄様。あなたさえ生まれてこなければよかったですのに! もう二度とオルガント家に帰ってこないでいただきたいわ!」
両親や兄は使用人も協力し、円満な家庭を築こうとしている中でルイーゼは愛されているリルに嫉妬し、ゼウスからも悪態をつかれるようになり、オルガント家の家族関係は崩れていった。
オルガント家に関わる者は全員、彼女らには仲のよい姉妹及び兄妹でいてほしいと望んでいた。
そして、リル自身も――
彼女はルイーゼが言っていることを理解することができずにいた。
何故、自分は捨てられなければならないのか?
何故、自分は愛されるべき人間ではないのか?
何故、何故――
「……わたしはお父様とお母様、ゼウスお兄様とずっと一緒にいたいです!」
まだ幼いリルはたくさんの疑問が渦巻いている中で唯一、言いたかったことを彼女にはっきり言った。
しかし、ルイーゼは「おだまり!」と言い放ち、聞く耳を持たない。
「何度言ったら分かりますの!? もう二度とオルガント家に帰ってこないでと言っていますのに! あっ、そうだわ! あなたにぴったりな場所がありましたわ。実際に行ってみましょう?」
「嫌です!」
「大丈夫ですわよ? わたくしも一緒ですもの。あなたに愛される人間がいると思いますわよ? おそらく無理でしょうけど」
ルイーゼは高笑いしながら、泣いて拒否しているリルの反応を無視し、引きずるように闇オークションの会場へと向かう。
「やはり、先ほど会った少女には裏があったようだな……」
クロウはルイーゼ達と分かれたふりをしつつ、店や家の壁に隠れながらこれからの彼女らの動向を追っていた。
先を行くルイーゼには見えていないが、リルの視線は彼の方に何かを訴えかけるように向けられている。
「あなたでもいいからわたしを助けて!」と言われているように――
「今の状況で救えるのは私しかいない……たとえ、彼女が望まなくともな……本当は行く予定ではないが――」
可憐な少女は目がないクロウでも緊急事態だと気がつく。
彼の心中でやはり幼い彼女をそのまま放っておけない。
「私もその場所に向かうとしよう」
クロウは二人を追って本来ならば行く予定ではなかった闇オークションの会場へ向かった。
2022/05/20 本投稿