#18
「あの少女がお姉様と言っていた……彼女は妹……つまり、彼女らは姉妹ということか……」
クロウが歩く速度が速かったせいか、いつの間にかルイーゼ達のすぐ近くにいた。
この路地裏を歩いている人物は彼を含め、三人しかいない。
目的の人物はすぐに見つけることができてしまう。
「あっ、お嬢様?」
「えっ!?」
クロウはルイーゼの小さな肩を優しく叩いた。
二人はその場で立ち止まり、警戒しながら後ろを向く。
ルイーゼとリルからすると見慣れない人物が立っていた。
肩まである艶やかな銀髪、右目には片眼鏡をかけた整った顔立ちで黒ずくめ青年の姿が彼女ら視界に入る。
「突然、お声をかけてしまってすみません。先ほど、こちらの紙を落としませんでしたか?」
彼の手にはルイーゼのポシェットから落ちた紙をすっと手渡した。
彼女はポシェットの中身とその紙を確認し、「あっ、ないわ……」と呟く。
「この用紙はわたくしのものです! 感謝致しますわ。これからお茶でもいかが?」
「お礼なんてそんな……私はすぐに……仕事に……」
「あら、そうですの?」
「あなたのお気持ちは嬉しいのですが、大変申し訳ございません……」
「残念ですわ。また何処かでお会いしましょう?」
「ええ、そうですね。また何処かで」
「ご機嫌よう」
クロウからするとルイーゼは幼くて可愛らしい雰囲気があり、上品でしっかりした少女の印象を受けた。
しかし、彼女はその外見とは裏腹に少し押しが強いところがある。
押しが強い女性や少女は苦手だと思っていた彼だが、彼女らが王室貴族であることを知らずに――
◇◆◇
「オリエンタルにもあんな美男がいらっしゃるのね!」
ルイーゼは通行人の男性に話しかけられ、ご機嫌になりつつ、薄暗い路地裏を再び歩き始めた。
通常ならば、屋敷から出かける時は家族全員であるいは護衛をつけることがほとんど。
しかし、彼女はそれを拒否した。
ルイーゼはこれから例のオークションに実の妹のリルを出展しようと目論んでいるのだから。
「ルイーゼお姉様……怖いです……」
一方のリルは薄暗い路地裏の雰囲気に恐怖感が強く感じている。
「あら、なんてことを仰るの? ここに住んでいる人に失礼に値しますわ!」
「で、でも……」
「帰りたいとは言わせません」
「ひっ……」
「絶対に言わせませんわ!」
恐怖のあまりに彼女の瞳から涙を浮かばせ、「嫌だ!」とルイーゼの手を振りはらおうとした。
しっかり繋がれた姉妹の手は愚か、楽しく過ごした時間に終止符を打とうとしている。
「わたしは家に帰りたいです!」
「わたくしに逆らう気でいますの?」
「いけませんか?」
「まあ、捨てられる身なのですから反発されても困りますわねぇ」
「……す……捨てられる……」
彼女はリルに何故このような治安のよくない路地裏に連れ出した本当の理由を告げる。
それを耳にした瞬間、ショックを受け、しゃがみこんでしまった。
2022/05/20 本投稿