#17
サンドウィッチの会計を済ませたルイーゼとリルはキッチンカーから少し離れたところにベンチを見つけた。
二人はそのベンチに仲よく並んで腰かける。
観光客や地元住人らは一斉に鞄や洋服のポケットから携帯電話やデジタルカメラを取り出し、写真撮影をし始めていた。
「リルお嬢様、ルイーゼお嬢様! こちらを見てください!」
「あなた邪魔よ!」
「そちらこそ!」
「今日はゼウス坊っちゃまはいらっしゃらないのですか?」
「わたし、ゼウス様にお会いしたかったなぁ……」
好きに話している彼らに対して、ルイーゼ達は外出時の皇室マナーをきちんと守りながら静かにゆっくりと食べ進めていく。
カメラのフラッシュの光でリル達の視界を妨げられ、彼女らの目がチカチカしているようだ。
「め、目が……」
「こ、これは大変ね」
「他には方法がないのですか?」
「諦めるしかないわね。あんなにも観光客が集まってしまっているんだもの……」
「……はい……」
それに堪えつつ、黙々とサンドウィッチを食べ進めていく二人。
ルイーゼは全て食べ切るが、リルはおまけのソフトクリームで腹を満たされたせいか三種類食べて終了した。
「お腹いっぱいになりました」
「そうね。サンドウィッチは美味しかったわよね。食休めしたいところだけど、観光客が追ってこないうちに速やかにここから離れましょう」
「そうですね」
彼女らはゆっくり立ち上がり、観光客らが視線を逸らせている隙にベンチをあとにする。
今のところ観光客らの姿はないが、リルはルイーゼの足が徐々に速くなっていることに気がついていた。
その速さはあまりにも速くなっているため、引き摺られそうになる。
「あのー……ルイーゼお姉様。今からどちらへ?」
「秘密の場所よ。わたくしに黙ってついてきなさい! いいわね?」
「はい」
二人は明るく活気に包まれたオリエンタルの街から徐々に薄暗い路地裏へと踏み込んでいった。
先頭を切って悪魔のような笑みを浮かべつつ、声色を変えながら連れていくルイーゼとどこに連れていかれる恐怖に駆られるリル。
互いに視線を合わせないでどんどん進んでいく二人の少女。
これから彼女らはどこへ向かうのか分からない。
◇◆◇
微笑ましくサンドウィッチを食べているリル達を遠くから眺めていたクロウ。
「やはり、少女は可愛いなぁ……」
あまりにも可愛らしくサンドウィッチを食べているため、彼の頬がふにゃふにゃに緩んでいた。
「流石にずっとここにいるわけにもいかないからな。あと少ししたら戻るとしよう」
クロウが首を横に振っている隙にリルとルイーゼはベンチから離れており、彼の前を風のように去っていく。
これからどこへ向かうのか、幼い少女二人では危険ではないかと心配になり、視線を彼女らに向けた。
後を追うと二人が向かう先は街中ではなく、治安がよくない路地裏。
ルイーゼのポシェットから紙が落ちるところをクロウは逃さなかった。
その紙を拾い上げ、サッと流し読み、「……ほう……」と呟く。
「なるほど。これからこの辺りで裏のオークションが行われる予定なのだな……まずは紙を返さなければ」
彼は一瞬にして彼女らの向かう先を把握し、その紙をロングコートのポケットにしまい、二人を追いかけた。
2022/01/01 本投稿