#13
二人は迷子にならないよう、しっかり手を繋いで街中を歩いていた。
周囲を見回してみるとたくさんの住民や観光客が買い物や食事を楽しんでおり、彼女らの姿を見て穏やかな笑みを浮かべたり、手を振ったりしている。
ルイーゼとリルは笑顔で手を振り返したりしていた。
それもそのはずだ。
貴族の娘たちが仲よく手を繋いでオリエンタルの街を小さな身体で歩いているのだから。
色々なドレスや靴が並ぶ服屋に可愛らしいインテリア用品が陳列されている雑貨屋。
美味しそうな香りに包まれた喫茶店やどこかレトロな雰囲気がある映画館などが軒を連ねている。
その光景はリルにとってははじめて見るものばかりだ。
「わぁ……」
「リル。まず始めにどこに行きたいかしら?」
「ルイーゼお姉様はいいのですか?」
「いいのよ。わたくしのことは気になさらないで」
「で、では、お言葉に甘えさせていただきます!」
笑顔で話している彼女にルイーゼは少し気を遣ったのか視線は明後日の方向を向きながら話している。
二人の年齢差があるせいか、彼女を上目遣いで見ているリルは洋服の引っ張っていた。
「ん?」
「まずはお洋服屋さんに行きたいです。いいですか?」
「いいわよ。どこかしら?」
「わーい! ありがとうございます!」
無邪気に喜ぶリルは「あちらのお洋服屋さんです!」と指をさす。
その店は子供服の専門店であり、オルガント家御用達の店であるため、オリエンタルの住民や王室貴族マニアに知られている店の一つである。
ルイーゼは「では入りましょう」と言いながら彼女が指さした服屋の扉を開けた。
カランコロンと音が鳴り、「いらっしゃいませ」とやわらかな表情で出迎える店員。
「おっ、珍しく可愛らしいお客だな!」
「あら、よく見たらオルガント家のお嬢様方でしたか。ごゆっくりとご覧くださいまし」
「「ありがとうございます!」」
◇◆◇
楽しそうに店内をゆっくりと見て回る二人。
徐々に店内が騒がしくなっていることに気がついてきた模様。
「それにしても、お客様が増えてきましたわねぇ……」
「本当ですね」
そんな彼女らが知らないうちに店内には大勢の客が押し寄せてきた。
なぜならば、普段は見かけないオルガント家の娘たちを一目見ようとしてきたからだと思われる。
「見て! ルイーゼ様とリル様よ!」
「随分見ないうちに大きくなったなぁ……」
「さすが、王室の子供だわ……うちの子もあんな風に成長しないかしらねぇ」
「今日はゼウス様は一緒じゃないのか……」
「家族全員だったらなお嬉しいけど、お嬢様方だけでもお目にかかれて嬉しいわ」
騒がしい店内から客の嬉しい声が彼女らの耳に入ってきた。
「ここまで騒がしくなるならばお兄様も連れていけばよかったわ!」
「……そうですね……だったら家族総出で……」
「ああ……わたくしがしたことが……」
「それは仕方がないことです」
二人は小声で話している時、このようなことが脳裏をよぎった。
ルイーゼとリルが出かけているところを目撃したりした住民や観光客から情報を聞き付け、押しかけてきたのだろうと――。
そのような状況で店内の雰囲気には釣り合わない服装をした人物が紛れていた。
黒の背広を身にまとい、黒の手袋とロングコートを羽織った、肩まである艶やかな銀髪、右目には片眼鏡をかけた整った顔立ちの男性の姿が――。
2021/04/09 本投稿