#12
姉のルイーゼ・オルガントと妹のリル・オルガント。
たった数年で歪んでしまった姉妹の関係――。
彼女らの関係の変化に気がつくことができなかった父親であるフィン・オルガントと母親であるイリア・オルガントは悔やんでいた。
「私たちがもう少しルイーゼのことも気にかけていれば……こんな……ことに……」
「……イリア……」
「ごめん……なさい……ルイーゼ……気にかけて……あげられなくって……」
イリアの瞳に涙が溢れそうになり、フィンの胸に飛びつくように抱きつく。
彼女は彼の胸の中に顔を埋め、泣き始めた。
彼らの部屋にゼウスがノックをし、姿を現すその時まで――。
「父様、母様……」
「ゼウス!?」
「……いつの間に……!?」
「さ、最初からいたけど……ノックはちゃんとした」
「すまない。気がつかなかった」
「ところで、ルイーゼとリルは?」
二人が気がついた頃にはゼウスは部屋の中に入っており、慌てて冷静さを装おうとしたが、すでに遅かった。
フィンとイリアは彼を見て、一緒にいたとされるルイーゼとリルの姿がないことに気がつき、問いかける。
「あの二人はまだ敷地内にいると思う」
「分かったわ」
「僕はそろそろ出かける。用が終わり次第帰ってくるから!」
「気をつけて行ってくるんだぞ」
「ゼウス、行ってらっしゃい」
「「行ってらっしゃいませ、ゼウスお坊っちゃま」」
「はい。行ってきます!」
ゼウスは元気よく返事をし、両親とたくさんの使用人に見送られ、敷地内から姿を消した。
◇◆◇
同じ頃、ルイーゼとリルは両親の部屋の扉から中の様子を見ていた。
「ゼウスお兄様がお父様たちの部屋の扉を少し開いたままになっていましたね」
「そうね。会話の内容が漏れていましたわ」
「もうそろそろゼウスお兄様が出てくるんじゃ……」
「いけませんわ! 急いで隠れなければ!」
「そのようなことを言われましても……」
「ならば、あちらで隠れましょう!」
彼女らはひそひそと話している間にゼウスが部屋から出ようとしているため、どこに隠れようかと右往左往している。
ルイーゼは両親の部屋の左隣にある清掃用具置き場を指差し、二人はそこで身を寄せた。
彼の足音が清掃用具置き場の中にいる彼女らの近くを通過する。
その音とゼウスの姿がなくなった瞬間、ルイーゼとリルは大きく深呼吸をしながら出てきた。
「お兄様が出かけましたわ。そろそろわたくしたちも出かけましょう?」
「はい」
彼女らは両親の部屋の扉を叩く。
フィンの返事が聞こえ、二人はその部屋に入った。
「「失礼します」」
「おっ、リルー。気をつけて行ってくるんだぞー!」
「ルイーゼもね。気をつけていってくるのよ!」
彼は突然、リルを抱き締め、それを見たルイーゼは白い目で見ていた。
イリアはそんな彼女を気遣って優しく抱き締める。
「お、お母様……?」
「ルイーゼも本当はパパに抱き締めてほしかったのよね?」
「え、ええ。お母様でも嬉しいですわ」
「ありがとう。今日のお出かけはめいっぱい楽しんで」
「はい! では、行って参りますわ!」
「お父様、お母様、行ってきます!」
「二人とも行ってらっしゃい!」
「何回も言ってしつこいと思われるが、気をつけて行ってくるんだぞ!」
「「行ってらっしゃいませ、お嬢様方」」
彼女らはしっかりと互いの手を繋ぎ、うきうきした様子で屋敷から出て行った。
フィンとイリアは二人を暖かい眼差しで見送っている。
まるで、仲のよい姉妹がはじめてお買い物へ行く時のように――。
しかし、彼女らの仲よし姉妹ごっこはまもなく終わりを迎えようとしていること、これからルイーゼがリルを闇オークションに出店しようとしていること――。
オルガント家の面々は誰一人として知る由もなかった。
2020/03/04 本投稿