#11
リルが支度を終え、廊下に置いてあった椅子に腰かけ、脚をぶらぶらさせながら待機している。
数分後にルイーゼの部屋の扉が開き、彼女が自室から出てきた。
廊下には他の家族や使用人の姿はなく、二人の視界には誰もいない。
「あっ、ルイーゼお姉様!」
「お待たせ、リル。もう支度を終えていたのね」
「はい」
「忘れ物はないかしら?」
「ありません」
「分かったわ。では、お父様たちのところに寄ってから行きましょう」
「はい!」
リルは椅子からぴょんと飛び跳ねるように立ち上がり、先を行くルイーゼを早歩きで追いかける。
なんとか追いついたリルは互いの手を繋ごうとするが、ルイーゼはそれを拒もうとした。
「ルイーゼお姉様?」
「何かしら?」
「なぜ、ルイーゼお姉様はわたしの手を繋がないのですか?」
「…………はぁ……それを望むのならば……別にいいわよ?」
「ありがとうございます!」
「仕方がないわね……」
ようやく外出と姉と手を繋ぐことができ、嬉しく思うリルとそれにしぶしぶ応じ、自ら妹を誘い出すことができたルイーゼ。
彼女らは互いの手を繋がずに過ごしてきた数年間。
あっという間に時が流れ、二人は屋敷内から自分たちの足で外に出かけられるくらいの年齢にまで成長したのだ。
今まで感じることができなかった姉妹の手のぬくもり――。
「ルイーゼお姉様の手は温かいです」
「そういうあなたの手も温かいわよ」
「本当ですか?」
「ええ。改めましてお父様たちのところに寄ってから出かけましょう」
「はい!」
二人はフィンとイリアの部屋に向かっている時にゼウスとすれ違った。
彼はあまり仲がよくないと言われている妹たちが仲よさそうに手を繋いでいることに少し気になっている。
「ゼウスお兄様!」
「ちょ、ちょっとリル!」
「お、おう! リルか」
「あら、お兄様? どうされたの?」
「べ、別に。……って、貴様はなぜリルと手を繋いでいる!?」
「た、たまにはいいじゃない! ねえ、リル?」
「そうですね!」
「へぇー、貴様の割に姉らしいことをしているじゃないか」
「お兄様なんかに言われたくはありませんわ!」
「なんだと!」
「なんですって!」
「……まあまあ……」
顔を合わせる度々に衝突してしまうゼウスとルイーゼ、彼らの仲裁に入ろうとするリル。
子供たちの声は屋敷内に響き渡っていた。
◇◆◇
「おや、子供たちが集まっているかもしれないな」
「ふふっ、そうね。三人が揃って集まることは珍しいわね」
廊下から聞こえてくる子供たちの声をフィンとイリアは微笑ましそうに耳にしていた。
「そういえば、今さら気がついたことがあるのだが……」
「どうかしたの?」
「ああ。ここ数年はルイーゼとリルが一緒にいることがなかったな……」
「そう言われてみればそうね。リルはルイーゼよりゼウスや私たちと一緒にいたことが多かったから……」
「俺たちがもう少しルイーゼのことを気にかけていたら、子供たちは仲よくできたのかもしれないな……」
「ええ。私もあなたと同じように感じてしまい、後悔していますわ……」
彼らは三人の数年間の様子を振り返る。
フィンとイリアが後悔していることそれは――。
彼らとゼウスはリルのことを溺愛しすぎたことにより、ルイーゼは嫉妬してしまったのではないかと感じ始めていた。
2019/11/24 本投稿