#10
カチャカチャと食器の音を立てながら静かに朝食を食べているオルガント家。
執事やメイドなどの使用人はてきぱきと空になった皿を片付けたり、カップに紅茶を注いだりと動き回っている。
「「ごちそうさまでした」」
他の家族が椅子に腰かけたまま紅茶を飲んでゆっくり寛いでいる中、ゼウスは早々に席を離れようとしていた。
「あら、ゼウス?」
「今日は早くリビングから出るんだな?」
「ああ。ちょっと出かける用事を思い出しちゃって……今から準備を始めなきゃ。用が済んだらすぐに帰るから。父様、母様は心配しないで!」
フィンとイリアは彼が真っ先にその場から離れようとするのは珍しいと思っていたが、ゼウスに用事があるのならば仕方がないと思い、手を振って見送る。
その時、二人は彼に何事も起こらないことを願って――。
「リル、そろそろ出かける支度を始めなさい」
「はい」
「支度が終わり次第、出発するから忘れ物がないように」
「分かりました」
「リルお嬢様、お部屋に行きましょう」
「はい!」
ルイーゼからそのように言われたリルはメイドとともに嬉しそうに自室へ向かい、続くようにルイーゼも席を離れる。
まだ幼い彼女は察していなかった。
リルはもちろん、オルガント家にとっては、これまでの平穏な日々は少しずつ終わりを迎えようとしていることに――。
◇◆◇
各々の部屋に散り、それぞれの執事やメイドとともに支度をしている子供たち。
「リルお嬢様、本日はどのお洋服に致しましょう?」
「もし、お気に召さない時は他のお洋服でも構いませんからね」
リルのメイドが準備してくれた洋服は淡いピンク、空のような水色、肌のように透き通った白の三種類のワンピース。
どうしても彼女が気に入らなかった時のために他に数種類の洋服を用意していた。
「今日は……これとこれにします」
リルが選んだのは淡いピンクのワンピースと黒のカーディガン、ゴムのところについたところにレースがついたハイソックスに黒い靴。
「今日はルイーゼお姉様とお出かけですもの。少しでも可愛いものを着て行きたくて……」
「そうですよね。せっかくのお出かけですものね」
彼女はメイドによってドレスからワンピースに着替えていく。
茶色のポシェットにはフィンが食事が食べられるくらいのお金が財布の中に入れてあると部屋に届けてくれた。
「今日のお洋服は大人っぽいですが、とても可愛らしいですよ」
「ありがとうございます! ルイーゼお姉様と並んで歩けることがとても嬉しくて!」
「もう、リルお嬢様ははしゃぎすぎですよ!」
「そうかなぁ。せめて今日だけでもはしゃいでもいいですか?」
「仕方がないですね……今日だけですよ」
「わーい!」
支度を終えたリルはルイーゼが部屋から出てくるまで近くにあった椅子にちょこんと腰かけて待っていた。
◇◆◇
一方の彼女はすでに支度を終え、窓の外を眺めている。
ルイーゼはリルとは異なり、黒のロリータ服に身を纏っていた。
「リル。今は大丈夫そうでも、これからですわ……」
「お嬢様。今、なんと仰ったのですか?」
「いいえ。なんでもありませんわ」
「何かございましたら、なんなりと……」
「え、ええ……」
「リルお嬢様のところには行かなくてよいのですか?」
「そうね……そろそろリルの支度は終わった頃かしらね……行ってきますわ」
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
彼女はポシェットを首から提げ、その中に紙を入れ、メイドが見送る自室から出て行った。
2019/11/24 本投稿




