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奇聞集  作者: keikato
9/77

9 遺言

 この話を聞いたのは、私が大崎のおじさんと呼んでいる遠縁の者からである。

 ちなみに……。

 大崎のおじさんは八十歳を少し超えたところで、耳が少し遠くなってはいるものの、今も車を乗りまわすほどの元気者である。


 つい最近、平成二十年の秋のできごとである。秋祭りで神楽を舞った日だから十月中旬であったという。

 場所は自宅の駐車場。

 時刻は夜の十時頃であった。

 その夜。

 神社の神楽舞から帰り、自宅の駐車場に車を乗り入れると、車のライトに人影が浮かび上がった。ボンネットの直前だったそうだから、軽四の運転席から距離にして二メートルもない。

 人影は亡き義姉のヨシエだった。

 上半身がはっきり見えたので、ヨシエの顔は見まごうことはない。

 おじさんはすぐに車から降り、すでにこの世の者ではない義姉に声をかけた。

「なんで、こんなところにおるんか?」

 そのときは……。

 すでに死んでいるとわかっているので、それはもうびっくりしたが、無意識のうちに体と口が動いていたという。

 声をかけて、すぐ。

 義姉の姿は徐々に薄れてゆき、三秒ほどで消えたそうである。おじさんはその様子を、電灯の明かりを絞るふうに薄れていったと例えた。


 そのヨシエだが……。

 ヨシエの亡夫とおじさんの妻は兄妹という近しい親戚関係にあり、しかも互いの家は道路をはさんで真向いにあった。

 それが平成二十年の夏。

 ヨシエは自宅前の道路を横断中に車にはねられ、その日のうちに亡くなってしまった。

 ちなみに。

 ヨシエの葬儀には私も参列している。


 最後、おじさんはこう語った。

 自分の記憶では……。

 ヨシエの幽霊を見た日は、四十九日の頃ではなかっただろうか。

 義姉夫婦は子供に恵まれず、跡取りがいない。よって家督を継ぐ者がなく、先祖を祀る者がいない。

 あとのことを頼む。

 おそらくヨシエは、あの世に旅立つ前、そう言い遺したかったのだろうと……。


 この話には続きがある。

 空き家となったヨシエ宅には、去年からおじさんの孫夫婦が住み始めた。

 この孫が、ときおり口にするのだそうだ。

「じいちゃん、夜勤に出るとき、車のうしろに死んだおばちゃんが乗ってる気がするんやけど」

 そのときは、

「そんなことがあるもんか」

 一言、こう答えているという。


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