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奇聞集  作者: keikato
8/77

8 天罰

 この事件は私にも記憶があるから、やはり昭和三十五年前後の頃だった思われる。


 村には八坂神社と呼ばれる、田舎にしてはやや規模の大きな神社があった。山の中腹を切り開いて造られたもので、鳥居をくぐってから五十ほどの石段が拝殿まで続いていた。

 私も子供の頃、正月になると家族とともに初詣に参ったものである。


 事件は石段の中ほどで起き、見知らぬ男がそこで死んでいたのである。

 倒れた男のまわりには多くの銅板が散らばっていたそうで、その銅板は拝殿と本殿の屋根に使われていたものだった。

 すぐに警察が呼ばれる。

 男は神社荒らし専門の盗人だった。

 戦後しばらく銅は高値で取り引きされており、この男はあちこちの神社の屋根材の銅板をはいでは、それを売りさばいて生活の糧を得ていたのだろう。

 立ち会った警官の話では……。

 大量の銅板を背負って石段を降りるさなか、足を滑らせて頭を強打したということであった。実際、発見した村人も男の頭から血が出ていたのを見ている。


 そのとき。

 祖母アキが話していたのを覚えている。

 どんなに貧乏していても、盗みだけはしてはいけないよ。それも神様の前で、神様のものを盗むなんてもってのほかだ。

 あの盗人には天罰が下ったのだと……。


 今年、その神社にひさしぶりに参ってみた。

 建物全体が改修されており、子供の頃とずいぶん変わって見えた。

 屋根は瓦で、拝殿には鍵のかかったサッシ戸が張りめぐされていた。そして戸の一部には腕が入るぐらいの穴があり、そこには賽銭箱が設置されてあった。

 賽銭泥棒がいるのだろう。

 時代が変わろうと、そこらは今も昔も少しも変っていない。

 帰り道。

 苔むした石段を転ばぬよう降りた。


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