8 天罰
この事件は私にも記憶があるから、やはり昭和三十五年前後の頃だった思われる。
村には八坂神社と呼ばれる、田舎にしてはやや規模の大きな神社があった。山の中腹を切り開いて造られたもので、鳥居をくぐってから五十ほどの石段が拝殿まで続いていた。
私も子供の頃、正月になると家族とともに初詣に参ったものである。
事件は石段の中ほどで起き、見知らぬ男がそこで死んでいたのである。
倒れた男のまわりには多くの銅板が散らばっていたそうで、その銅板は拝殿と本殿の屋根に使われていたものだった。
すぐに警察が呼ばれる。
男は神社荒らし専門の盗人だった。
戦後しばらく銅は高値で取り引きされており、この男はあちこちの神社の屋根材の銅板をはいでは、それを売りさばいて生活の糧を得ていたのだろう。
立ち会った警官の話では……。
大量の銅板を背負って石段を降りるさなか、足を滑らせて頭を強打したということであった。実際、発見した村人も男の頭から血が出ていたのを見ている。
そのとき。
祖母アキが話していたのを覚えている。
どんなに貧乏していても、盗みだけはしてはいけないよ。それも神様の前で、神様のものを盗むなんてもってのほかだ。
あの盗人には天罰が下ったのだと……。
今年、その神社にひさしぶりに参ってみた。
建物全体が改修されており、子供の頃とずいぶん変わって見えた。
屋根は瓦で、拝殿には鍵のかかったサッシ戸が張りめぐされていた。そして戸の一部には腕が入るぐらいの穴があり、そこには賽銭箱が設置されてあった。
賽銭泥棒がいるのだろう。
時代が変わろうと、そこらは今も昔も少しも変っていない。
帰り道。
苔むした石段を転ばぬよう降りた。