77 気配
今回の話は今年、妻を手伝って隣保班の市報配りをしていたとき、妻から聞いた不思議な話である。
ちなみに、市報配りの役は各戸に輪番制でまわってくるのだが、私が外に勤めに出ていたということもあり、長い間ずっと妻が一人でやってくれていた。
そういうこともあって、妻は三十戸近くあるご近所さんについて、私の知らない多くの情報を持ち合わせていた。
妻が指折り数えて言う。
うちの隣保班は早死にする奥さんが多く、自分が知っているだけで六人の奥さんが旦那さんより先に亡くなっている。で、その反対は一軒しかないのだという。
隣保班がミニ団地の中にあるので、ほとんどの家が私たち夫婦とほぼ同年代なのだが、旦那さんがまだ住んでいることを考えれば、これは確かにかなりおかしな割合である。
それも四十代、五十代と、ずいぶん若くして亡くなっているという。
言われてみれば過去に、近所のだれだれの家の奥さんが亡くなったという話は、妻から聞いてはいた。しかし、それは長い期間の中のことだったので、私はいちいち気にしたことはなかったのである。
道中、妻から「うちの隣保班はそうなっているのかも。あんたも私が先に逝って、独りで暮らすことになるかもね」と脅される。
市報配りの帰り、妻の話が今回の話の本題へと移った。
その家は隣接する隣の隣保班の中にあるのだが、我が家とは生活道路を隔てた四軒斜め向こうという、距離的にはすごく近い位置にある。
私たち夫婦がここに住み始めてまもなく、そこの夫婦も家を建てて引っ越してきて、娘さんも生まれたので、我々夫婦とほぼ同じ年代だと思われる。
今は旦那さん、娘さん、旦那さんのご両親の四人で暮らしているようで、たまに旦那さんや娘さんが車で出かけるのを見かけることがある。
ここで話は、いったん四十年ほど前にさかのぼる。
当時は旦那さんと奥さん、そしてよちよち歩きの娘さんの三人が住んでいて、奥さんが幼い娘さんを家の前の道路で遊ばせているのをときおり見かけていた。
それがある日、旦那さん一人しか見かけなくなった。奥さんが病気で亡くなったらしく、娘さんは旦那さんのご両親が引き取ったようだった。
そのとき亡くなった奥さんは、まだ二十代後半だったのではなかろうか。
それから二十年ぐらい経って、ご両親と成長した娘さんの姿を見かけるようになった。
娘さんは成人して勤めていたのだろう。私は通勤するときその家の前を通っていたので、娘さんが早朝に車で出かけるのをよく見ていた。
ここで再び話が大きく飛ぶ。
妻の不思議な話がいよいよ始まったのである。
それは我が家の子供がまだ小学生のころ。妻が子供会の世話をしていたとき、一緒に活動していた同じクラスの子の母親Aさんがこんな話をしたそうである。
Aさんは「わたしは霊感なんてぜんぜんないんだけど」と前置きしてから、「あそこの家、何かあったの?」と、妻に聞いてきたそうである。
あそこの家というのは、前述の奥さんが若くして娘さんを残して早世した家である。
妻が「なぜ?」と問い返すと、Aさんは「あの家の前を通るたびに、何か普通でない気配を感じる」と言ったという。
そこで妻はもしかしてと思い、その家の奥さんが若くして亡くなったことを教えたそうだ。
私は、そのときのAさんの「何か普通でない気配」というものをもっと具体的に知りたかったので、「Aさんは何をどう感じたと言っていたのか」と妻にしつこく確認したのだが、妻の返事は「ずいぶん前のことなので覚えていない」という残念なものであった。
ただ妻によると、Aさんはちょっと離れた所に住んでおり、子供会のことで我が家に来る際、道順的にその家の前を歩いてきていたらしい。
結局、今となってはAさんがどのようなことを感じていたかは知るよしがない。
ただ言えることは、Aさん本人は霊感がないと思っていたようだが、実際は霊感が強い人だったのではなかろうか。
そう考えれば納得できるのである。
そして話が冒頭に戻る。
奥さんが割と早い年齢で、旦那さんより先に亡くなっているという隣保班の話。
Aさんの体験した不思議な話。
霊は仲間にしようとする者を呼ぶという話を聞いたことがあるが、前述の二つのことはそれと関係しているのだろうかと、つい疑いたくなる。
が、これらはたまたまのことであろう。
そう考えないと悲しすぎる。
最後、先の妻の脅しの言葉。
「あんたも私が先に逝って、独りで生きていくことになるかもね」
これはごめんこうむりたいものである。




