76 禁忌
この話は知人の神主さんが、自分が見聞きした不思議をメールにして送ってくれたものである。
その話の内容について、送られてきたメールに沿って紹介したいと思う。
「今このへんでは、空き家バンク《親の死去、引越しに伴い、家を壊さず譲ること》に入居してくる都会の方がちらほら見られます。
先日、その空き家バンクに引っ越してきた六十代後半のご夫婦から、うちの神社にお祭りの依頼がありました。
ひとつは古い井戸を壊す水神上げ。
もうひとつは屋敷の草藪から出てきた祠をよそにやりたいというもので、それを撤去する業者は、お祓いなしには動かしてくれないといいます。
私がその家にうかがって祠を拝見すると、それは屋敷祠のようでもあり、昔の落ち武者のお墓のようでもあり、何十年とこの地区の祠のお祭りをしてきた父でさえ知らないというのです。
そして、すでにその家には不思議なことが起こっていて、前の居住者が母屋は片付けていたものの、納屋はまったく手が付けられてなくて、そこを片付けていたら、必ず悪寒がし、手足がつり、何とも気分が悪くなるとのことでした。それで香を焚き、お遍路さんが持つ鈴を鳴らしながら入っていくと、少しはましになるというのです。
私は井戸のお祭りだけをして、祠のお祭りの方はお断わりしました。私にはハードルが高すぎますと……。
わけのわからない石を理由なく動かす。
これは禁忌ですからね。
結局。
そのご夫婦はお祓いもしないまま納屋を片付け、トイレもつぶし、改造計画に成功して住んでるわけですが、よくもまあ……こんな怖いところにと、こちらは違った意味で感心しきりです」
この夫婦のドライさには私も驚いた。
一方。
草藪から出てきた祠。
今回は入居前に気がついたが、もし気がつかず入居していたらどうなっていたのだろう。
何かが起こったのだろうか?
それとも何事もなかったのだろうか?
私がこの話で一番興味を覚えたのはそこである。
また「香を焚き、お遍路さんが持つ鈴を鳴らしながら入っていくと、少しはましになる」という。
ということは、これら禁忌に対する怖れは、本人の気持ちの持ちよう、自己暗示とも受け取れる。
とはいえ……。
ひどい怖がりの私。
たとえお祓いをすませたとしても、神主さんも怖れるようなそんな家には、とてもじゃないが住む気になれない。
《禁忌の意味》
さわりのあるものとして忌みはばかられる物事への接近・接触を禁ずること。病気・出産・死などの状態に関するもの、食べ物、方角、日時に関するものなどさまざまな形のものがあり、一般に、違反者は超自然的な制裁を蒙るものとされる。さわり。タブー。(精選版 日本国語大辞典より)




