73 赤いドレス
今回の不思議な話は「某同人誌の会」で一緒に活動しているMさんから聞いたもので、Mさんの長女になる、今は亡き娘さんのことである。
ちなみに娘さんは、幼少の頃から難病と闘い続けていたのだが、無念にも二〇一五年十一月、若くして天国に召された。
彼女は生前、Mさんとともに同人誌の会員として童話や詩を発表していたので、私も彼女のことはよく存じており、愛称を「ノンちゃん」といった。
私が初めて彼女と出会ったときは自分の力で歩いていたが、難病は無慈悲に進んでいたようで、途中からは車椅子を使っていたと記憶している。
これ以後。
話の内容や経過を分かりやすくするため、娘さんのことを「ノンちゃん」と呼ぶことにする。
Mさんが不思議なことに遭遇したのは、ノンちゃんが亡くなった翌月の十二月のことだったという。
この月。
Mさんはノンちゃんと関係があった、某社団法人開催の「障がい者を対象としたファッションショー」に招待されていた。本来はノンちゃんが招待されていたのだが、前月に亡くなっていたので母親であるMさんはその代理としてだった。
少し説明を加えれば……。
このファッションショーは、「服は着る薬」ということを掲げて活動をしている服飾デザイナーT氏が開催したものだという。T氏とノンちゃんとの交流は数年ほどさかのぼり、Mさんの次女の結婚式に着るドレスを、このT氏に依頼したことから始まったそうだ。
このとき快く引き受けてくれたT氏は、体に障がいのあるノンちゃんの体形に合わせ、黒いドレスを作ってくれたという。
妹の結婚式の日。
ノンちゃんはその黒いドレスを着たそうである。
それから数年後。
こうしたT氏との関係があって、ノンちゃんは「障がい者を対象としたファッションショー」にモデルとして招待され、黒いドレス姿でランウェイに登壇する予定だった。
十二月某日。
ファッションショーの会場には、次女の娘さんと孫の三人で行った。
会場に着いたのはショ―の終盤で、着くとすぐMさんはT氏より舞台に招き上げられ、多くの観客の前で生前のノンちゃんの思い出を語った。
ちなみにこのとき舞台の上には、妹の結婚式の日の黒いドレス姿のノンちゃんが、拡大された写真のパネルとなって飾られていたそうである。
話が長くなったが……。
ここまではMさんも、まったく気がついていなかったそうだ。その不思議を知ったのは舞台を降り、観客席で待っていた娘さんたちのところへ戻ったときだったという。
妹の子供、ノンちゃんからすれば甥っ子になるのだが、その子がMさんを待っていたように、モデルが歩くランウェイの向こう側を指さして言った。
「あそこにノンちゃんがおったよ」
赤いドレスを着たノンちゃんが、ランウェイの向こう側の観客席にいたのだという。
次女も言う。
「私も見た」
見た場所は同じ、そして赤いドレスを着ていたことも同じだった。
このとき……。
Mさんはすぐにその場所を目で探したが、そこにはすでにノンちゃんの姿はなかった。もちろん赤いドレス姿の人もなく、娘さんたち二人が見えていたのも短い時間だったらしい。
妹と甥っ子が、近距離のノンちゃんの顔を見まちがえるとは考えにくい。しかも二人同時に見ている。
赤いドレス姿のノンちゃんは、彼女の霊のようなものだったのだろうか。
何とも不思議なできごとである。
そして……。
一つ、わからないことがある。
それはこの日、ノンちゃんは黒いドレスではなく赤いドレスを着ていたということである。




