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奇聞集  作者: keikato
7/77

7 奇人

 この話は親戚の女性から聞いたものである。

 彼女は九州の片田舎の出身であり、高校の修学旅行中に体験したことを話してくれた。


 その修学旅行は半世紀近く前――昭和四十四年の秋にあり、一番の目的地はその年に開かれていた大阪の万博会場だった。

 彼女も万博見学を楽しみにしていたのだが、大阪に向かう寝台列車の中で高熱に襲われる。風邪が原因だったのか、のどがひどく痛かったそうだ。

 このとき。

 それを聞き知った担任教師から「波多野先生なら治してくれるはずだ」と誘われ、その教師のいる客車に移動することになった。

 波多野という教師は生物を教えており、保健の担当でもなんでもない。それでも、その教師の元に行くことになったのは、それなりの理由があった。

 それはのちほど語るとして……。


 彼女は波多野の元に行くのがイヤだった。

 というのも以前より、波多野に対し強い嫌悪感を抱いていたからだ。

 まず容姿が嫌いだった。

 生徒たちからは「ハタブー」と呼ばれるほど太っており、しかも脂ぎった赤ら顔をしていた。

 さらに生徒らからは奇人と言われていた。彼女にとっては、気持ち悪いという印象しかなかったのだ。

 次に授業。

 彼女は生物の授業を受けていたのだが、波多野は授業前に奇妙なことを行っていたという。

 そして……。

 この奇行こそが、先ほどの理由を語るにうえで重要なことになる。

 その奇妙な行為とは……。

 言葉二十個を――いつも必ず二十個であったそうだが、生徒の一人に思いつくままを黒板に書かせ、反対向きに立った波多野がすべてを言い当てるというものだった。

 それは書いた順、反対の順、いずれからでもあっても必ず言い当てたそうで、なぜ言い当てられるのか生徒のだれもがわからなかったという。


 担任に半ば強制的に手を引かれ、彼女はフラフラする足取りで車中を歩き、波多野の元に行った。

 彼女がそのときのことを話してくれる。

 波多野は自分の正面に立ち、頭の上に左の手のひらを乗せた。それから頭をやや押さえ、口の中で何やら言葉を唱え始めた。

 それは呪文のようで、言葉の意味はまったくわからなかった。

 そのときは……。

 波多野にさわられるのはイヤだが、万博は見たいので早く治りたい。ただ、その一心だった。

 二十秒ほど過ぎたとき。

 右手の指が顔に向かって、パッ、パッ、パッという感じで三度振られた。

 その瞬間。

 身体の熱が一気に引くのがわかったという。


 翌日の大阪。

 のどの痛みは少し残っていたが、彼女はなにごともなく万博見物をしたそうだ。

 今にして思えば……。

 あのとき一瞬にして熱が下がったのは、授業前の奇行と関係していたのだろう。だが当時は嫌悪感が先に立ち、そんなことは考えもしなかったという。


 その波多野という教師。

 当時、四十歳前後だったというから、存命であれば今は八十五歳ぐらいであろう。

 奇妙な教師がいたものである。


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― 新着の感想 ―
[一言] 少しずつ読んでます! そこまで怖くはないところが怖いです。 リアル……いや、実話って書かれてますが。 気付かずにそばに落ちていそうで、背中がゾクゾクします! 今回の話はちょっとホッコリ。 波…
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