64 河童
この話は以前、「オルゴール」の話を提供してくれたTさんの体験談である。
今回は河童を見たことがあるという。
それは小学校低学年の頃であったというので、やはり平成五年前後のことだと思われる。
その日。
両親、Tさん、弟の四人で長崎へと家族旅行に出かけた。
宿に着くとさっそく、Tさんと弟は川べりにある露天風呂へと向かった。
日が暮れて、あたりは暗かったという、
露天風呂には先客が一人もなく、二人の貸し切り状態であった。
そこへ二人連れがやってくる。
湯煙と暗さでしかとは見えないが、一人は大人のようで、もう一人は自分らより小さかったので幼い子供のようだった。
不思議なのは二人の体形である。
二人とも身体が異常に細く、とても普通の人間には見えなかった。
姿形がとにかく異様である。
本で知るところの河童そっくりである。
Tさんは薄気味悪くなり、すぐに弟を連れて風呂から出たという。
「ぜったい河童だと思いました」
これはTさんの当時の感想である。
部屋に戻って、先ほどの二人連れのことを弟に話した。
ところが話がかみ合わない。
弟に何度も確認したが、あとからやってきた者はいなかった。風呂はずっと自分らだけだったという。
「あのとき見た二人、今でも河童の親子だったと信じてるんです」
Tさんは語気を強めて言った。
今回の話はにわかに信じがたい話である。
さらには幼い子供の頃の記憶である。
そうしたこともあり、この話は長らく投稿を保留にしていたのだが、先日たまたま、NHKの妖怪特集番組を見ていたら、子供の頃に河童に遭遇したことがあるという、男女二名のご老人が登場した。
ちなみに。
この二人に面識はなく、別の土地の別の河童の目撃談なのだが、目撃現場の淵などに案内し、二人が語る内容は詳細でかなり真実味のあるものだった。
で、私はあることを思い出した。
見える者、見えない者。
感じる者、感じない者。
これまでも不思議な話をいくつも聴き取っていて思ったことだが、この世の怪奇というものは、見える者には見え、見えない者には見えない。そして感じる者は感じ、感じない者は感じないということである。
Tさんは見える人である。
で、この河童の話を投稿することにした。




