63 火伏せ
今回の話は、某神社の神主をしている知人が、その方の父親から聞いたという不思議な話をメールにして送ってくれたものである。
それをできるだけ忠実に記して紹介する。
先日初めて火の神様を祀る神社にご奉仕して、父が話していた祖父のことを思い出しました。
父の実家はやはり神職をしていました。
生家には大きな社殿があり、そこにお参りにこられる氏子の方もいたようです。
それがあったのは昭和二十年代の終わりで、そのときすでに、父は母と結婚して現在の実家に養子にきており、父の生家には祖父と祖母、それに兄夫婦が住んでいました。
それでは父から聞いた祖父の話をしたいと思います。
ある風の強い夜。
生家の近所の家が火事になりました。
風にあおられ、火のまわりは速かったようで、たちまち隣の家にも飛び火し、二軒とも激しく燃え始めました。
火事の現場は生家の社殿とは目と鼻の先で、飛び火するのは確実とだれもが覚悟をしました。
そのとき神主の祖父が社殿を守るように立ちはだかり、火伏せの祝詞を読み始めたそうです。すると不思議と風向きが変わり、さらには火勢もだんだんと弱まり、社殿への延焼はのがれたといいます。
父が語るありし日の祖父は、足が萎えた氏子をまじないで立てるようにしたり、狐につかれたという氏子を元どおりにしたりと、不思議な力をもった神主であったようです。
祖父は摩訶不思議な霊力のようなものを持っていたのかしれません。
ちなみに……。
後年になって父から、祖父が肌身離さず持っていたという、ぼろぼろになった呪術の本を見せてもらったことがあります。
その祖父は私が四歳のときに亡くなりました。
記憶のかぎりでは、長いあごひげに、強い光を放つ目をしていて、優しいおじいちゃんという印象は少しもありませんでした。
以上です。
最後に「火伏せ」の用語をネットで調べると次のような解説がされていた。
火災を防ぐこと。特に神仏が霊力によって火災を防ぐこと。




