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62 亡き母
この話は某神社の神主さんの体験談。
ただし、これまでに何度も登場した神主さんとは別の方である。
その方は涙ながらに話した。
数年前。
自分は家の中で心臓発作を起こし、あまり痛さにまったく動けなくなった。
意識も薄らいでゆく。
その場にうずくまり、胸をかきむしるようにしていると、
「どうしたんか!」
声がして、母が走り寄ってきた。
母はそばに座り込んで、自分の背中を手でさすり続けてくれた。
その間。
「どうしたんか、どうしたんか?」
母の声だけが聞こえていた。
母に背中をなでられているうち、それまでの痛みが徐々に和らいでくる。
意識もはっきりしてきて、やっとこのとき自分は助かったのだと思った。
あのときの母の声、そして手の感触と温もりはしっかりと覚えている。
その方は最後にこう言い添えた。
「それが不思議なんです。その数年前に母は亡くなっているんですよ」
見えるはずのないものが見える。
聞こえるはずのないものが聞こえる。
匂うはずのないものが匂う。
これまでも、そんな不思議な体験談が多く寄せられている。
今回は加えて手の感触と温もり。
霊というものは人の五感に訴えてくるのだろう。
そう思った。




