58 祟り
今回は知人女性から聞いたもので、彼女が小学一年生のときに体験したことである。
昭和五十年代後半のことだそうだ。
彼女の家には「ゆめ」という名の猫がいた。
毛なみは虎柄。
体は大きいが性格はいたって優しく、甘えん坊で人なつこい猫だった。
ある日。
ゆめがぷっつりと姿を消した。
「どうしたんだろう?」
彼女は子供心に毎日、ゆめが戻ってくることを祈るようにして待っていた。
そんなときである。
「そこの川で、大きなトラ猫が死んでたけど」
近所に住むAさんという女性が、わざわざ彼女宅まで知らせに来てくれた。
早速、両親が現場までかけつけた。
そのとき。
猫の死骸はすでに処分されたあとで、はっきり確かめることはできなかったが、Aさんの話からして、その猫はおそらくゆめだろうということになった。
それを聞いた彼女は大声で泣き、両親はその日のうちにゆめの仮のお墓を作ったという。
問題はこのあとである。
その後しばらくしてから、近隣の住民らからいろんな噂話を聞くことになった。
「お宅の猫は川で溺れて死んだんじゃない。Aさんが殺したんだ」
「Aさんは自分の家に近づく猫たちに、毒を入れた餌を食べさせている」
大方がこのような話だった。
冷静に考えればたしかにそのとおりで、猫が川で溺れ死ぬとはにわかに信じがたい。
ここからは彼女が話したそのままを記す。
「この話はずいぶんあとになって、うちの親から聞かされたことなんですが……。
当時のAさんは身重の身体だったそうで、それからまもなく赤ちゃんが生まれたんですが、その子は大きくなってからも口がきけなかったらしいんです。それで父も母も、あの噂話は本当のことだったんだと思ったそうです。
それからもAさんの家は、家族に病気や怪我などの災いが続いていました。そういうことがあってか、家族のみなが家を出て、今ではだれも残っていません」
「やはり祟りなんでしょうかね?」
私の問いに、
「そうでしょうね。口には出さないけど、ここらに住んでる人たちは、だれもがそう思っていたのではないでしょうか」
彼女はこう答えたのだった。
殺された猫の祟り。
昔からよくある話だが、今回はそれの現代版といったところだろう。




