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53 胸騒ぎ
この話は知人女性が中学二年生のとき、クラスメイトで仲の良かったTとのことである。
彼女の年齢からして、昭和五十年前後のことだと思われる。
その日。
Tはずっと机にうつ伏していた。
ふだんはおもしろいことを言ったり、男子をからかったりと、いつも元気にはしゃいでいるので、彼女は気になって声をかけたそうだ。
するとTは「なんか胸騒ぎがする。とても悪いことが起きそう」と言った。
「そんなことないよ」
彼女はそう元気づけたという。
ところがTの胸騒ぎが現実のものとなる。
三時間目の授業中。
父親が急死したと、親戚の者がTを迎えに来たのである。
「Tちゃん、泣きながら帰りました」
子供ながらに虫の知らせのようなものを感じ、彼女は複雑な思いでTの後姿を見送ったそうだ。
父親がすでに病気だったのか、それとも急な事故にあったのかははわからない。しかしその日、Tは学校に来ているのだから、父親の死は予期せぬ突然のものだったことにはちがいない。
胸騒ぎや虫の知らせというものは誰にでもある。
考えられるのはその日、Tにもそのようなものがあったということだろう。




