52 警告
この話は知人女性から聞いたものである。
平成二十九年の夏。
旅行へ行っての帰り、深夜の特急列車の中でのできごとだったという。
帰路。
彼女は最終便に乗っていた。
車内はがら空き、二人掛けのシートにくつろいでウトウトとまどろんでいたという。
そんなとき、
「こわいっ!」
子どもの叫ぶ声を聞いた。
声がしたのは斜め後ろからのようだった。
そのときは親がいるだろうと、彼女はたいして気にせず振り返るまではしなかった。
列車の位置を確認するため車窓に目を向けると、そこには夜の海が広がっており、はるか対岸には自分の住む町の明かりが見えた。
五分ほど過ぎたころ。
「こわいっ!」
ふたたび子供の声がした。
さすがに気になって振り向いた。しかし視界の範囲には声の主であろう子供、さらにその親の姿も見えなかった。
車窓の外に再び目を向ける。
そのときやはり、自分の住む町の明かりが海の向こうに見えていたそうだ。
彼女が奇妙に思い始めたのはこれからである。
電車がなぜか減速を始め、駅でもない場所で停車してしまったのである。
――どうしたんだろう?
そう思っていると、電車が再び走り出したので安心して目を閉じた。
するとである。
「こわいっ!」
三度めの子供の声が聞こえた。
振り向くも、このときも子供の姿は見えない。
車窓に目をもどし、列車の位置を確認したところ山の中だった。
そこは海が見えるずいぶん手前である。
やがて海が広がり、対岸に自分の住む町の明かりが見えてきた。
どう考えてもありえない。
時間がさかのぼったか、もしくは一度、列車が逆走したことになる。
彼女は言った。
三度、自分は子どもの声を聞いた。
二度、同じ海を見て、自分の町の明かりを見た。
あのとき。
あれがたとえ夢であったにしても、二度も三度も続けて同じ夢を見るものだろうか?
彼女がそのときのことを振り返る。
「あの声、こわいって、なにかの警告のようなものだったのかしら?」
ちなみに。
翌日になって新聞を見たが、列車事故などはいっさい載っていなかったそうだ。




