51 声
この話は童話の同人誌の編集会議で実際にあったことで、何ということもないのだが、それでも日常の中のちょっとした不思議ではある。
この日は私のほか三人の女性会員で、印刷会社に出す直前の編集作業をしていた。そして奇妙なことがあったのは,私が所用で引き上げたあと。
平成二十九年十月某日のことである。
場所は女性会員Hさんのお宅。
このHさんは奇特な方で、通りに面した一部屋を改装して、近所に住まれる老人らの「ふれあいの場」として開放している。
編集作業はこの部屋で行っていた。
そのときは私が帰ったあとだったので、ここでは編集局長のSさんの後日談を載せることにする。
作業が終わろうかというときね。
私が原稿の束を紙袋にしまおうとしたときだったんだけど、ちょっとした油断から手をすべらせてあやうく落としそうになったの。
ハッとして原稿を受け止め、なんとか落とさずにすんだんだけどね。
で、不思議なのはそのときなの。
あっ!
そんな声がしたんで、それでいち早く受け止められたのよ。
助かったって思った。
だって床に落としていたら、せっかくページ順に並べた二百枚近くの原稿がバラバラになってしまうでしょ。
その声、右側からしたの。
それですぐに私、右隣に座っていたHさんにお礼を言ったのよ。
声のおかげで助かったってね。
でもHさんね、自分は「あっ!」ていう声は聞いたけど、それは自分じゃないって。
だから左隣りにいたMさんにも確認したの。
そしたらMさんは首を振って、やはり声は聞いたけど自分は声を出していないって。
それからの三人。
いったいだれの声だったのかということで、いろいろ物議をかもしたらしい。
声はたしかに聞こえた。
声は女性だった。
結局。
三人とも「あっ!」という声は聞いたが、三人とも自分は発していないとゆずらず。
声の主は謎のままだという。
そこにいた人の目に見えぬものが、おもわず声をあげてしまったのだろうか。
それが油断だとしたらおもしろい。
追記。
令和二年八月。
編集局長のSさんから「声」に関しての新たな奇怪な情報がメールで寄せられた。
お盆の間。
私の実家では、ご先祖様にさしあげるお膳を作って拝み、それが終わってから自分たちが食べます。
その日。
ご先祖様にお膳を供え、それから自分たちの食事を始めようと、父と夫は居間に座り、私は食事の支度にと台所へ行きました。
そのときです。
「おーい!」
私は男性の声を聞きました。
「はーい」
返事をして居間に行くと、夫はだれも呼んでいないといい、父は玄関を指さして、あちらの方から声がしたといいます。
その声は私と父にだけ聞こえたようです。
夫が玄関まで見に行きました。
誰もいなかったそうです。
その後。
食事をしながら、不思議なことがあるものだと話しました。
最後。
お盆だからご先祖様だったのかも、ということになりました。
玄関には神棚があったのです。
結局。
この話でも声の主は謎のままです。




