5 隣室
この話は知人の女性から聞いたものである。
昭和五十年頃、彼女が住んでいた短大の女子寮で体験したことだそうだ。
卒業式から数日後。
その日は寮を出る準備のため、実家から母親も来て引っ越しの荷造りをすませ、翌日の朝には寮を出ることになっていた。
そして夜。
彼女の部屋は引っ越しの荷物で狭くなっていた。そこで空き部屋となっている隣室に布団を持ち込んで寝たそうである。
深夜のこと。
彼女は胸に重みを感じて目が覚め、さらにだれかが近づいてくる気配を感じた。
同時に、
「だれかが入ってきた!」
隣で寝ていた母親が叫んだ。
つまり二人は、同じ部屋で同じ時刻に奇妙なものに遭遇したのだ。
二人は布団をかかえ、あわてて彼女の部屋にもどったそうである。
そのとき……。
彼女が先ほどのことをたずねると、母親はこのように話したという。
「廊下を歩く音がしてね。その足音が部屋の前で止まったと思ったら、だれかが部屋に入ってきたんだよ」
その女子寮は二階建てで、廊下をはさんで二十ほどの部屋があった。それぞれに内鍵がついており、彼女たちが寝た空き部屋にも内鍵があり、寝る前にはしっかり鍵をかけていたという。
彼女は言った。
「あの隣室には、年の初めまで後輩が住んでいたんです。あとになって知ったことなんですが、その後輩は学校を辞めてすぐ自殺をしていたんです」
なぜ、あの夜に現れたのかはわからないが、その後輩の霊であったのではと。
だが、私はこうも考えた。
隣室の後輩は、もともとそこにいた霊に呪われて自殺したのではないかしらと……。