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奇聞集  作者: keikato
43/79

43 野良猫

 今回の話は、五十代半ばの女性、知り合いのSさんから聞いたものである。

 Sさんがそのことを体験したのはずいぶん以前、彼女が結婚したての頃で、昭和が終わりを迎えようとしていたときだった。


「不思議といえばそうなんですが……」

 Sさんはそう前置きして語り始めた。

 話をひととおり聞くに、たしかに不思議なことではあるが、むしろほのぼのとさせられる内容だった。

 そこで今回は、Sさんの体験に沿ったかたちで物語風に綴ってみようと思う。

 Sさんは仮名で幸子とした。


 結婚した頃。

 幸子は二階建ての木造アパートの上の階に住んでいたのだが、アパートの敷地には何匹もの野良猫が寄り集まり、猫好きな彼女はそんな猫たちに会うのが楽しみになっていた。

 ある日。

 野良猫の一匹に食べ物を与えたことから、部屋の入り口には入れかわり立ちかわり、ほかの野良猫たちもエサを欲しがってやってくるようになった。

 幸子はそんな野良猫たちに食べ物を与え、それらの一匹一匹に名前をつけてやる。

 ミー、ポコラ、あん、ヒネ。

 しばらくすると……。

 野良猫たちは彼女の自転車の音を聞きつけると、どこからともなく現れてはひとしきり甘え、エサを食べては帰っていくようになった。

 そうした中の一匹、きじ猫のミーはおなかが大きかった。赤ちゃんが生まれようとしていたのだ。

 そんなミーに、

――ぶじに生まれますように。

 幸子はそう願い、普段から特に目をかけていた。

 その後。

 ミーは母猫になった。

「ミーちゃん。しっかり食べて、赤ちゃんにお乳をあげるんだよ」

 幸子はミーに話しかけては、ほかの猫よりも多めに食べ物を与えた。

 そんなこともあってか……。

 ミーは買い物についてくるようになる。

 こっそり部屋に上がり込んできたりもする。

 ほぼ飼い猫と変わらぬほど、幸子になつくまでになったのだった。

 それでも家庭の事情から、ミーとは最後まで野良猫としてつき合い続けた。

 幸子の夫は転勤族で、勤め先が変われば住む土地も変わる。猫を飼えなかったのである。


 その日の朝。

 幸子が仕事に出かけようとしたときだった。

 ミャアー。

 ミーの鳴き声が玄関のドア越しに聞こえた。

――さっき食べさせたばかりなのに……。

 そう思いつつ玄関を押し開けたとん、幸子はドアの前の光景にたいそう驚くことになる。


 ミーと、見知らぬ一匹の猫。

 二匹の間には手の平に乗るほどの子猫がいて、それはミーそっくりのきじ猫だった。

 ミャアー。

 ミーが幸子をじっと見つめて声をあげる。

 ミャアー。

 子猫の父親なのだろうか、もう一匹の猫も幸子を見上げて鳴いた。

 ミャアー。

 子猫も鳴いた。

「この子がミーちゃんの赤ちゃんなのね。私に見せに来てくれたんだ」

 幸子はミーに向かって話しかけた。

 その言葉を理解したのか、ミーは子猫を連れて満足そうに帰っていく。

「ありがとね」

 幸子は三匹のうしろ姿に声をかけた。

 ミーが振り向く。

 一声、ミャーと鳴いた。

 それから子猫を口にくわえ、一階に続く外階段を降りていく。

――幸せになるんだよ。

 幸子はそう願いながら、三匹の野良猫を見送ったのだった。


 最後はSさん自身の言葉で閉める。

「猫は獲物を狩ると、主人に見せる習性のあることは知っていました。でも、生まれたばかりの子猫を連れてくるとは、ほんとにびっくりでした。ご飯をもらったおかげでこんなに大きくなったよって、我が子を見せに来たにちがいないんです」

 あの日のことを思い出すたびに、今でもSさんは心がほっこりするのだという。


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