42 憑依
知人女性から聞いた話である。
今から二十年ほど前のことだというので、たぶん平成十年の頃だと思われる。
話というのは彼女の姪のこと。
彼女の姪は市の職員だったのだが、不幸なことに二十四歳という若さで亡くなられたそうだ。
死因は不運にも、一人暮らしをしていたアパートのベランダからの転落事故。
ある雨の日の夜。
姪が飼っていた猫が、ベランダの屋根のあたりまで登って降りられなくなってしまった。
そこで姪は猫を助けようと、ベランダの柵の淵に足をかけ、猫に向かって手を伸ばしたらしい。
ところがバランスを崩し、地上へと転落。
そのとき現場を目撃した者がおり、のちにその方の証言で事故の詳細がわかったという。
姪の亡きあと、この猫は姪の両親によって引き取られたのだが、不思議とひとときも姪の遺影の前から離れようとしなかった。
七回忌の法事の日。
住職がお参りに訪れると、猫は仏間に入ってきて遺影の前に座り、まるで家族や親族らとともに参列しているように見えたという。
ここまでの彼女の話だと、猫は普段から家の中にいるとしたもので、その場に居合わせたのはたまたまのことだとすまされる。
ただ奇妙な話というのはここからで、人並みならぬ霊感を持っている彼女自身が、この法事の場で体感したことである。
「お経が始まって間もなくでした。背中のあたりにずっしりとした重みを感じたんです。それから体中に冷や汗が流れ始め、背中の重みで頭がじわじわと下がってきたんです」
必死に顔を上げようとするのだが、彼女はどうしても前を向けなくなったそうだ。
と、猫と目が合う。
猫の目はとても悲しそうに見えたという。
「姪にかわって伝えようとしているみたいで。思わぬ事故で死んだ、姪のやりきれない気持ちをですね」
ただ、その原因はそもそも猫にある。
私はそのことを言ってみた。
「その猫も、やるせないでしょうね。自分が原因で最愛の主人を亡くしたんですから」
「それで姪の魂を憑依させたのかも。あの猫、姪にとてもかわいがられていましたので」
彼女は最後にこう締めくくった。




