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奇聞集  作者: keikato
42/79

42 憑依

 知人女性から聞いた話である。

 今から二十年ほど前のことだというので、たぶん平成十年の頃だと思われる。

 話というのは彼女の姪のこと。

 彼女の姪は市の職員だったのだが、不幸なことに二十四歳という若さで亡くなられたそうだ。

 死因は不運にも、一人暮らしをしていたアパートのベランダからの転落事故。


 ある雨の日の夜。

 姪が飼っていた猫が、ベランダの屋根のあたりまで登って降りられなくなってしまった。

 そこで姪は猫を助けようと、ベランダの柵の淵に足をかけ、猫に向かって手を伸ばしたらしい。

 ところがバランスを崩し、地上へと転落。

 そのとき現場を目撃した者がおり、のちにその方の証言で事故の詳細がわかったという。


 姪の亡きあと、この猫は姪の両親によって引き取られたのだが、不思議とひとときも姪の遺影の前から離れようとしなかった。

 七回忌の法事の日。

 住職がお参りに訪れると、猫は仏間に入ってきて遺影の前に座り、まるで家族や親族らとともに参列しているように見えたという。

 ここまでの彼女の話だと、猫は普段から家の中にいるとしたもので、その場に居合わせたのはたまたまのことだとすまされる。

 ただ奇妙な話というのはここからで、人並みならぬ霊感を持っている彼女自身が、この法事の場で体感したことである。

「お経が始まって間もなくでした。背中のあたりにずっしりとした重みを感じたんです。それから体中に冷や汗が流れ始め、背中の重みで頭がじわじわと下がってきたんです」

 必死に顔を上げようとするのだが、彼女はどうしても前を向けなくなったそうだ。

 と、猫と目が合う。

 猫の目はとても悲しそうに見えたという。

「姪にかわって伝えようとしているみたいで。思わぬ事故で死んだ、姪のやりきれない気持ちをですね」

 ただ、その原因はそもそも猫にある。

 私はそのことを言ってみた。

「その猫も、やるせないでしょうね。自分が原因で最愛の主人を亡くしたんですから」

「それで姪の魂を憑依させたのかも。あの猫、姪にとてもかわいがられていましたので」

 彼女は最後にこう締めくくった。


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