41 虫の知らせ
前回の「お地蔵様」とよく似たできごとである。
話を聞いたのは知人の神主からで、その方の住んでいた家が土石流で押し流されたという。
時期としては、知人がそのとき中学生だったというところから、おそらく昭和三十年代の半ばだったと思われる。
その年の九月。
三日ほど、大雨が断続して降っていた。
家のそばを流れる川はすぐにも氾濫しそうで、その日は朝から家族総出で敷地の境に土嚢を積んでいた。
そのさなか。
「神社に行ってみるぞ」
まだ土嚢が積み終わっていない状況で、なぜか父はその場を放り出して神社に行くと言い出した。
神社の方が心配だ。
神様に呼ばれている気がするのだという。
家族そろって神社に向かった直後だった。
決壊した土手から敷地に、鉄砲水が一気に押し寄せてきて、またたくまに家が土石流で流された。
家にあと三分いたら、自分たちも土砂で流されていただろうという。
「父の一言で命拾いをしたんです。それにしても奇妙なことがあるものですな」
「いつも奉仕をしていたので、神様が助けてくれたんでしょうね?」
私の問いかけに、
「いや、そんなたいそうものではありませんよ。たぶん虫の知らせだったんでしょうな」
知人の神主は謙遜しつつ、それでも父親のことをうれしそうに話した。
これもたまたまなことなのかもしれない。
とはいえ不思議な話である。




