4 狐の皮
この話は誰かにといったものではなく、我が家で飼っていた鶏に起きた悲惨なことである。
私にもその記憶があるから、昭和三十五年前後の頃だった思われる。
祖母アキの弟に克己という者がいた。
克己は幼少にして養子に出されたのだが、養子先がそれほど遠くないこともあって、ちょくちょく姉である祖母の元へ顔を見せていた。だから私も克己のことはよく知っている。
克己は狩猟を趣味としていた。
農閑期には、養子先に狩猟する森がないのか、猟犬を連れて私の住む村によく来ていたものである。
ある日。
克己が狐を手に我が家に立ち寄った。裏山で射止めたのだと自慢していたのを子供心に覚えている。
克己は狐の皮をはいで、我が家の玄関先の軒下に吊るした。軒下にぶら下がった狐の皮は、今でも私の目に焼きついている。
その晩のことだった。
鶏たちの鳴き騒ぐ声に、家族総出で鶏小屋まで走って行った。
鶏は五羽ほどいたのだが、そのときはもうみなが噛み殺されていた。
このとき……。
祖母と父は狐の仕業だと話していた。
それまでもたまに、鶏は何ものかに襲われることがあったのだが、たいていはイタチの仕業であり、短時間でみながやられることはなかったのである。
あれは裏山に棲む狐の復讐であったのか、それともたまたまのことであったのか……。
その後。
狐の皮がどうなったのかは記憶にない。