36 霊臭
今回は知り合いの女性から聞いた話で、彼女の義母が亡くなった半月ほどあとにあったことである。
平成三十年の夏のことだ。
お盆の前夜。
夫は先に寝入り、彼女が風呂に入ろうとしたときだった。
線香の臭いがどこからともなくしてくる。
――どうして?
彼女は奇妙に思った。
借家の住まいには仏壇などなく、日頃から線香を焚くようなことがない。なぜ臭うのかわからなかったのである。
――夫の服かな?
はじめはそう思った。
その頃の夫は勤め帰りに実家に立ち寄り、仏壇に手を合わせることが日課となっており、ときおり洋服から線香の臭いがしていたからだ。
――でも、こんなに臭うなんて……。
違和感を感じつつも線香の臭いをやり過ごし、彼女はそのまま浴室に向かった。
入浴して数分後。
浴室にまで線香の臭いが漂ってきた。
ドアは締め切ってある。
――なんで?
自分の鼻がおかしいのかとも思う。
それを確かめるように、石鹸やシャンプーを手に取って臭ってみた。石鹸は石鹸の香り、シャンプーはシャンプーの香りがする。
鼻のせいではなかった。
線香の臭いはさらにひどくなり、やがて線香の煙が浴室内にたちこめるように臭ってきた。
――おかしい!
彼女は線香の臭いに耐えきれなくなり、手早くパジャマに着替えて浴室を飛び出したという。
寝ていた夫をたたき起こした。
「なんか線香臭いな」
目を覚ました夫が開口一番に言う。
「なんでか、こっちが聞きたいの。お風呂の中まで線香の臭いがするんだから」
「風呂もか」
「そう、これだって洗濯したばかりなのに……」
そのとき。
着ていたパジャマからも線香の強い臭いがしたそうである。
その夜。
彼女はネットで調べてみたそうだ。
すると「線香の臭い」から「霊臭」という文字にいき当たったという。
最後に彼女はこう言った。
「あの線香の臭いは義母の霊の臭いで、亡くなった義母が最期に会いに来ていたのでしょうね」
線香の臭い。
それはお盆が終わると消えたそうである。




