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奇聞集  作者: keikato
34/79

34 足音

 この話は知人女性の体験談である。

 彼女には母方に祖母がいるのだが、不思議なことを体験したのは、その祖母の妹にあたるSさんが亡くなられたときのことだという。

 小学生の夏休みの日だったというので、そのことがあったのはずいぶん以前のことになる。


 その日。

 彼女は家業の店番を手伝いながら、そこでいつものように夏休みの宿題をしていた。

 じりじりとしたとても暑い日で、店先に打ち水をしても、まくそばからゆらゆらと陽炎が立ち昇っていたという。

 そんなときだった。

 カタカタカタ……。

 彼女は通りを忙しげに駆け抜ける下駄の鳴る音を耳にした。

――Sおばちゃんだ!

 音でわかった。

 彼女には聞きなれた懐かしい下駄ばきの足音だったのである。

 すぐに顔を上げ通りに目をやった。

 Sさんお気に入りの白地に紺のアヤメの柄の呂の着物。

 黒塗りで朱の鼻緒の下駄。

 そのとき。

 それらが脳裏に写真を写したように鮮明に見えたという。

 あわてて立ち上がり、あとを追うように通りに走り出たが、そのときすでにSさんの姿はなかったそうだ。

 そのSさんだが……。

 当時、列車を使っても半日かかるほど遠く離れて暮らしていたのだが、母はSさんにはずいぶんと世話になっており、彼女は幼少の頃からSさんのことが大好きで慕っていたそうだ。


 その日の夕方。

 Sさんが亡くなったという訃報が届いた。

 葬儀の日。

 Sさん宅の玄関には、あの黒塗りで朱の鼻緒の下駄があったという。

 Sさんの亡骸には、白地に紺のアヤメの柄の呂の着物が掛かっていたという。


 彼女が言う。

「あのとき、私はなにを見たのでしょうね?」

 今思い出しても、虫の知らせというにはあまりにリアル過ぎたという。

 そして。

 彼女は最後にこう結んだ。

「大好きだったSおばちゃんが、私に会いに来てくれたんだと思うことにします」


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