3 托鉢僧
これは祖母アキ自身にまつわる話である。
戦後すぐの春だったというから、昭和二十一年もしくはその翌年のことだと思われる。
その頃アキは、右足が腫れて動かなくなるという奇病を患っていた。医者に診てもらっても原因がわからない。現在であれば治るであろう病も、当時の町医者の医療技術はそんなものであったのだろう。
その後も……。
痛みをこらえるだけ、アキはそんな生活をしばらく送っていたそうである。
そうしたある日。
托鉢に来た僧が、「この家には重い病の者がおるであろう」と、玄関先から家の奥を見やった。
この托鉢僧の相手をしたのは、嫁いできたばかりの私の母である照子であった。さっそくアキの病状を話すと、アキを呼び寄せて念仏を唱えたという。
奇妙なのはその後である。
その晩からアキの足の腫れは引いてゆき、翌日には痛みがすっかり消えたそうである。
祖母の病が治ったのは偶然だったとは思えない。
その托鉢僧が、奇妙な能力を身につけていたとしか考えられない。
後年。
祖母と母は、「あのことばかりは不思議だ」と何度も口にしていた。
托鉢僧だが……。
当時の農村では、托鉢をしてまわる僧はよく見かけられた。農家の玄関先で念仏を唱えては、そのお布施として小皿一杯のコメを得るといったことをしていたようである。
子供の頃。
私も祖母に頼まれ、小皿一杯の米を托鉢僧に手渡したことがある。
こうした托鉢僧。
昭和三十年代の半ば、高度成長期を迎えた頃からとんと見なくなった。