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奇聞集  作者: keikato
22/79

22 人面蛙

 この話は知人女性が提供してくれたもので、彼女が小学校三年生のとき、同じクラスだった女子生徒のTのことである。

 平成に入ってすぐの頃だったという。

 ちなみに現在、Tは整体の店を構えており、今でもたまに顔を合わせることがあるそうだ。


 子供の頃のTは男勝りの気質で、男子とけんかをしてまで、いじめられている子を助けるといった正義感の強い子であった。

 その一方。

 虫ピンで昆虫を刺し殺す。

 バッタの手足をすべてもいでしまう。

 Tの家で石鹸水に入れられたザリガニを見せられたときは、Tは笑顔でこう話したという。

「いつまで生きるか実験してるの」

 そのように生き物を平気で殺すといった、Tの行動にはとても残忍な一面がかいま見られた。


 ここから話の本題に入る。

 その日。

 彼女はTに誘われて、クラスメイト四、五人と近くの池にザリガニ釣りに行った。

 その池は川から水が流れ込んでおり、広さはプールにして二面ほど、中央のあたりはかなりの水深があるように見えた。

 浅瀬のある池の淵に陣取る。

 仕掛けは釣り糸の先に煮干しを結んだだけのものだったが、おもしろいようにザリガニが釣れる。

 T以外の者はザリガニ釣りが初めてで、どの子も夢中になって釣りに興じていた。

 そんなときだった。

「見てっ!」

 Tが大声で叫ぶ。

 その叫び声に、みんなの視線はいっせいにTの指さす先に向いた。

 彼女も見た。

 池の中央あたりに大きな波紋が広がっている。

 だが、それだけであった。

「ねえ、今の見たでしょ? 男の人の顔をした、大きな蛙を」

 Tが興奮気味にしゃべる。

「ウソっ!」

「ほんとに?」

 そこにいた誰もが、そんなものは見てないと首を振り否定した。

「ほんとだってば! 水面に浮き上がってね、こっちをジロッと見て、もぐったんだから」

 Tの真剣な説明にも、そのとき誰一人、Tの話を信じることはなかった。

 むろん彼女もだ。


 その後のTだが……。

 そのことがあって以来、なぜか人が変わったように残忍性が見られなくなった。

 生き物をかわいがり、猫、犬、猿、梟、兎を同時に飼っていたこともあったという。

 そして、後年のこと。

 彼女はTの述懐を聞く機会があり、そのときになって残忍性が消えた理由を知った。

 Tはこう語ったという。

 あの日の夜、人面蛙の夢を見てね、その人面蛙が夢の中で私にこんなことを言ったのよ。

 なぜオマエ、無駄な殺生をするんだ? むやみに生き物を殺すもんじゃないって。

 夢から覚めたときね。

 私は池で見た人面蛙が、夢の中にも現れたのだと思った。それで子供心ながらに反省して、それからは生き物の命を大切にするようになったの。


 彼女は最後に話をこう結んだ。

「Tの夢の話を聞いて、あのとき本当に人面蛙がいたのかもと思うようになったんです。あの日を境に、まるで変わったTを見ていましたので」


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