22 人面蛙
この話は知人女性が提供してくれたもので、彼女が小学校三年生のとき、同じクラスだった女子生徒のTのことである。
平成に入ってすぐの頃だったという。
ちなみに現在、Tは整体の店を構えており、今でもたまに顔を合わせることがあるそうだ。
子供の頃のTは男勝りの気質で、男子とけんかをしてまで、いじめられている子を助けるといった正義感の強い子であった。
その一方。
虫ピンで昆虫を刺し殺す。
バッタの手足をすべてもいでしまう。
Tの家で石鹸水に入れられたザリガニを見せられたときは、Tは笑顔でこう話したという。
「いつまで生きるか実験してるの」
そのように生き物を平気で殺すといった、Tの行動にはとても残忍な一面がかいま見られた。
ここから話の本題に入る。
その日。
彼女はTに誘われて、クラスメイト四、五人と近くの池にザリガニ釣りに行った。
その池は川から水が流れ込んでおり、広さはプールにして二面ほど、中央のあたりはかなりの水深があるように見えた。
浅瀬のある池の淵に陣取る。
仕掛けは釣り糸の先に煮干しを結んだだけのものだったが、おもしろいようにザリガニが釣れる。
T以外の者はザリガニ釣りが初めてで、どの子も夢中になって釣りに興じていた。
そんなときだった。
「見てっ!」
Tが大声で叫ぶ。
その叫び声に、みんなの視線はいっせいにTの指さす先に向いた。
彼女も見た。
池の中央あたりに大きな波紋が広がっている。
だが、それだけであった。
「ねえ、今の見たでしょ? 男の人の顔をした、大きな蛙を」
Tが興奮気味にしゃべる。
「ウソっ!」
「ほんとに?」
そこにいた誰もが、そんなものは見てないと首を振り否定した。
「ほんとだってば! 水面に浮き上がってね、こっちをジロッと見て、もぐったんだから」
Tの真剣な説明にも、そのとき誰一人、Tの話を信じることはなかった。
むろん彼女もだ。
その後のTだが……。
そのことがあって以来、なぜか人が変わったように残忍性が見られなくなった。
生き物をかわいがり、猫、犬、猿、梟、兎を同時に飼っていたこともあったという。
そして、後年のこと。
彼女はTの述懐を聞く機会があり、そのときになって残忍性が消えた理由を知った。
Tはこう語ったという。
あの日の夜、人面蛙の夢を見てね、その人面蛙が夢の中で私にこんなことを言ったのよ。
なぜオマエ、無駄な殺生をするんだ? むやみに生き物を殺すもんじゃないって。
夢から覚めたときね。
私は池で見た人面蛙が、夢の中にも現れたのだと思った。それで子供心ながらに反省して、それからは生き物の命を大切にするようになったの。
彼女は最後に話をこう結んだ。
「Tの夢の話を聞いて、あのとき本当に人面蛙がいたのかもと思うようになったんです。あの日を境に、まるで変わったTを見ていましたので」




