2 墓参り
これは祖母アキから聞いた、アキの祖父、やはり仲作にまつわる話である。
それがあったのはアキが尋常小学校に入学した頃だというので、大正の初めだと思われる。
仲作は信心深い男で、妻の死後、毎晩のように妻の墓参りをしていた。
墓は村の共同墓地にあり、そこは裏山のかなり奥まった場所なため、家からは山道を歩いて片道二十分ほどかかる。
それでも仲作は、その日の農作業を終えると、晩飯の前に墓参りを続けていたそうだ。
ある晩。
仲作が血相を変えて帰ってきた。
子供のアキがそのときに見た記憶によると、ずいぶん息を切らしていたという。
家人が訳をたずねるも……。
仲作は決して口を開かなかった。なにもしゃべらなかったそうである。
そして……。
翌日からピタリと墓参りをやめ、仏壇の前で長い間お経を唱えるようになった。
その数年後。
仲作はなにも話すことなく、自分もその共同墓地に埋葬された。
あの晩、仲作は墓地で何かを見たにちがいない。
しかし……。
それが妻の霊であったのか、それともほかのものであったのかはわからない。
ただ、祖母はいつも話していた。
あの晩の仲作の怯えた顔は、今もはっきり覚えていると……。
子供の頃。
私もその共同墓地に参ったことがある。
そこはずいぶんと山奥にあり、墓とは呼べないような丸っこい石などを含めると、大小さまざまな墓が百基以上あった。
明治の頃は土葬も行われており、それで狐などに骨が掘り返されることもあったと、そんな話を父に聞かされたことがある。
現在、我がご先祖はその墓地に眠っていない。
今は実家近くのお寺の納骨堂にいる。
山奥で管理ができないため、父が墓を掘り上げて骨をお寺に移したのである。
さらに。
その一部は分骨され、それらは京都の西本願寺の納骨堂にも納められている。
ご先祖様もあちこちを転々として大変である。