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12 手
この話は知人の教師から聞いたものである。
この知人は神社の神主もしている。
事件は十年ほど前、この知人夫婦が所用先から自宅に帰る車中で起きた。
時刻は夜の十時ごろ。
場所は空港に近い国道。
突然、二人の間のサイドボックスからヌクッと手が出て、それからすぐに引っこんで消えたそうだ。
知人は大いにおどろいたが、助手席の妻は気がつかなかったのか少しも動じていない。
「今、そこから手が出ただろ」
恐るおそる妻に話すと……。
自分も手を見た。でも、あなたは運転中だからおどろかせてはいけない。それで黙っていたと言う。
知人によれば……。
そこは交通事故が多発しているというが、そのことが関係しているかはわからない。
しかもサイドボックスから出現した。
ましてや手だけである。
その道路は何度も走るが、そうしたものが現れたのは、あとにも先にもそれ一回きりだそうだ。
知人は教師のほか某有名神社の神主でもあり、いたって信用のできる人物である。
この体験談。
嘘のような本当の話である。