11 記憶
この話は私が若い頃、職場の上司でもある先輩から聞いたものである。
ちなみに。
その先輩は十年程前に定年退職をされた。
話は先輩の祖母のことである。
先輩の祖母は、先輩が幼少の頃に亡くなったそうなのだが、問題は祖母に関する記憶であった。
先輩の記憶では……。
晩年の祖母は、おそらく病弱であったのだろう、たいていは自分の部屋にこもっていた。
それでも週に一度や二度、祖母の姿を見ることはあった。部屋をのぞけば畳の上に座っていたり、トイレに行き来する姿を廊下で見かけたりした。
ただ、祖母と話をした覚えはないという。
それが小学校入学のあと、急に祖母の姿を見かけなくなった。葬儀の記憶はないが、祖母は自分が一年生のときに亡くなったものだと思っていた。
ところが後年。
両親の遺産を相続した折り、祖母の戸籍を見る機会があったのだが、祖母の死亡年月日を知って驚くことになった。
なぜか祖母は、自分が四歳半のときに鬼籍に移っていたのだ。
「小学校入学は六歳だから、自分の記憶と二年ほどの差があるんだ。記憶のあるその二年間、当時の自分は祖母のなにを見ていたんだろう」
先輩の言葉が今も印象深く残っている。
記憶のある二年間。
先輩は祖母の霊を見ていたということになる。
不思議なことがあるものだ。