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奇聞集  作者: keikato
1/77

1 白い影

 この話はずいぶん昔、私の祖母アキが子供の頃、アキの祖父から聞いた話である。

 アキは明治三十八年生まれであるが、アキの祖父が奇妙なその白い影を見たのは、おそらく祖母が生まれる前のことだったと思われる。


 祖父の名は仲作といった。

 その日の夕暮れどき。

 仲作は飼い犬を連れ、同じ村の者と二人で、所用があって隣村へと向かっていた。はっきりとした時刻はわからないが、暗くなっていたそうだから黄昏どきはとうに過ぎていたのだろう。

 隣村までは一本道であった。

 村境あたり。

 薄闇の中、前方からぼんやりとした白い影が近づいてくるのが見えた。

 このとき仲作は、この白い影が自分の村の者だと思ったそうだ。

 白い影との距離が十間ほどになる。

 と、そのとき。

 飼い犬がいきなり吠えて走り出し、それから白い影に向かって飛びかかった。

 その瞬間。

 白い影が消えたそうである。

 道の両側は田んぼで、水が張られた中には稲が一尺ほどに伸びていた。

――田んぼに落ちたのでは?

 仲作たちはあわててその場にかけ寄った。

 だが、そこにはだれの姿もなかった。

 さらに田んぼにはだれかが落ちた形跡はなく、稲もなんら乱れていなかったそうである。

 犬だけがやみくもに吠え続けていた。

 この犬はずいぶんおとなしく、普段は決して人に向かって吠えたりしなかったそうだ。

 二人はそのまま村に引き返したという。


 アキは子供のころ、この奇妙な話を、祖父の仲作から幾度となく聞かされたそうだ。

 白い影が何者であったかはわからない。

 だが、あのとき二人同時に見た。それに犬が吠えかかったのだから、あの場に何かがいたのはまちがいないことだ。

 仲作はいつもこう話していたという。


 ちなみに。

 その現場は私もよく知っている。

 私が小学校のとき、通学路として通っていた道である。

 祖母からこの話を聞かされていたので、夕暮れ時にここを通るときは、いつも全速力で走り抜けていたものだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] ひいい それは全力で通り抜けますよね 気にせず通学路にしている学校つよい
[良い点] おお。現代の都市伝説風怪談とも違う、なんだか民俗的な香りのする怪談ですね。これから読み進めるのが楽しみですー。
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