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フランスから戻った男と妹


 フランスから戻った東条は無事に戻れたことを喜びつつも、襲ってきた眠気には勝てず、雑貨商店の中で目を瞑り、夜を明かしてしまった。


 東条は窓から差し込む光を受けて目を覚ます。寝起きのせいで意識は朦朧としていたが、昨日のことははっきりと覚えていた。


 中世フランスとジャンヌ・ダルク。あの美しい少女との出会いは、まるで夢のような出来事だった。


 東条はゴクリと生唾を飲み込む。人生で口にしたものの中で最も美味しいと断言できる神狼のステーキ肉を思い出し、口の中が涎で溢れた。と同時に、彼は満腹になっていることに気づく。普段の彼なら朝目を覚ますと、痛みを感じる程に空腹になるのだが、今日だけはなぜか例外だった。


「駄目じゃない、お兄ちゃん。店で寝たら風邪引くよ」

「何しに来たんだよ?」

「朝食。持ってきたの」


 絹のような黒い髪と、子犬のような人懐っこい顔をした少女――東条の妹である栞が雑貨商店の扉を開けて中に入ってくる。エプロン姿から手に持つ朝食が彼女の手料理であることが分かる。漂ってくる匂いと彼女の得意料理が卵焼きであることから、今朝のメニューが何なのかを東条は察した。


「お兄ちゃん、どうしたのっ!」

「ん? 俺はいつも通りだが?」

「いやいや、いつも通りじゃないよ。一晩で凄く身体が大きくなっているよ! 筋肉の塊になっているよ!」

「そんなことあるはずが――」


 馬鹿な話だと、店内に置かれた姿鏡で自分の姿を確認してみると、そこには信じられない光景が映し出されていた。


 短く切り揃えた黒髪と、インドアであることを証明するかのような白い肌、顔は醜くも美しくもない、どこにでもいる普通の容姿。ここまでは昨晩までと何も変わらないが、腕に視線を落すと、すぐに変化に気づく。力を込めればすぐにポキッと折れそうだった細腕は丸太のような太い腕に変わっている。さらに上着を捲し上げてみると、昨晩までは割れ目など見えなかった腹筋が、六つに割れて、まるでボクサーのような身体つきに変わっていた。


「昨晩、一体何があったの?」

「昨晩か」


 東条は身体が変化した原因として、すぐに昨晩食べた神狼の肉を思い出した。だがそれを説明する訳にもいかない。


「昨晩、筋トレしたことが効いたのかもな」

「筋トレ! いったいどんなトレーニングをすると、そうなるのっ!」

「まぁまぁ、良いじゃないか。筋肉はあって困るモノではないし」

「……そうだけどさ。けど私、びっくりしちゃって。まさかあの根暗で貧相なお兄ちゃんが、こんな筋肉お化けに変わるんだもん。夢でも見ているのかと思っちゃったよ」

「だろうな。逆の立場なら俺も驚く」

「まぁ良いか。お兄ちゃん、お腹減ったでしょ。朝食にしよっ」

「ああっ」


 本当は満腹なのだが、折角作ってくれたものを無駄にするわけにはいかないと、東条は持ってきてくれた朝食を頂く。予想していた通り、朝食のメニューは、卵焼きだった。


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