目をさましてごらん
わたしは木の上から弓を構えていた。夕食の材料を獲るために何時間もねばっていたが、未だに獲物は見つかっていない。
少しわたしはじれていたのだった。
そこへ、むこうの茂みをなにか黒いものが通るのが見えた。熊だ、と直感したわたしは迷わず矢を放つ。
いくらか待ってから獲物を確認しに行くと、そこには黒猫が死んでいた。熊ではなかったのだ。
とりかえしのつかないことをしてしまった。見開いた目はすでに光をうつしていない。
猫は微動だにせず言った。
「心配しなくていい。これは、きみの頭の中で起こっていることなんだから」
わたしは猫を凝視したが、さっきと同じ、死んだままだ。
「さあ、そろそろ目をさましてごらん」
目をさましてごらん
目をさましてごらん
目をさましてごらん
……
……
○
わたしは目ざめた。見えるのはいつもと同じ景色。培養液で満たされたガラス管の中からの景色だ。
何年か前の核戦争で、人類のほとんどは滅びてしまった。生きのこった人類はこうして管に閉じこもり、傷ついたからだを修復しているというわけ。
さっき見ていた夢は何だったっけ。そう、猫の夢だ。
まだ外の世界を自由に出歩けたころ、わたしは猫を飼っていた。もう何年も自分以外の生き物と会っていないから、こんな夢を見るのだろうな。
わたしのからだが全快するまでに、あと何年かかるのだろう。……いや、もし回復しても外には出られない。外界では未だに放射能が降りそそいでいるのだから。
ふかい絶望がわたしを覆った。
そこへ、管理を任せているロボットがわたしの管の前へやってきた。
どうしたんだろう。
ロボットは角張った言葉でガラス越しにわたしに話しかける。
「ゼツボウナンテシナクテイイ。コレハ、キミノ頭ノ中デオコッテイルコトナンダカラ」
既視感にわたしは顔をひそめた。
「メヲサマシテゴラン」
メヲサマシテゴラン
メヲサマシテゴラン
メヲサマシテゴラン
……
……
○
わたしはベッドから飛び起きた。いやな汗をびっしょりとかいていて、髪が頬に張り付いている。
嫌な夢を見たようだ。
時計を見ると、すでに六時五十分。七時に合わせためざまし時計はまだ鳴らないが、朝食に起きることにした。今日は平日だから、学校へ行かなければならない。
立ち上がって大きく伸びをしたところで、奇妙な声が聞こえた。
目をさましてごらん……
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