第5話 試験です
扉の先は地下への入り口になっていた。
薄暗い階段を降りるとまた扉が。さっきの扉よりも頑丈そうだ。でも取っ手ないし。
…ん?
なんかの魔術が組み込まれている?
ネフロムさんが触れると扉は淡く光り、自動ドアのようにひとりでにゆっくりと開いた。
ネフロムさんが魔力を流していたことから考えると、あの扉は魔力識別を行い、部外者が勝手に入るのを防ぐ役目があるようだ。
私たちが中に入ると、扉は自動的に閉じた。外からはわからなかったが、ここにはかなの強度の結界が施されている。扉が閉じたことにより、完全に結界に閉じ込められた形になる。
室内は円形でかなり広く、城の舞踏会が行われる大広間よりも、もう一回りか二回りほど大きい。
まあ、ここで剣を振り回したり魔法をぶっ放したりするなら、丁度いい大きさなのかもしれない。
私とネフロムさんは中央に行きお、剣の間合いよりもう少し離れて互い向き直る。
チェザンさんはと言うと、扉付近で立ち止まりこちらをじっと見つめる。
……変な意味じゃないよ!戦い方や実力を見たいだけだよ!
そこらへん誤解しないように!!
と、まあ冗談ですけどね。
私は(お茶目な)心を落ち着かせ、剣を構えた。
両者が準備を終えて、開始の合図を待つ。
緊張が高まり、空気が張り詰めた。それを破るかのようにチェザンさんの声が響く。
「始め!!」
開始の合図とともに、ネフロムさんが足を踏み込む。
まずはお手並み拝見といきますか。
一瞬で距離を詰めて来たネフロムさんは、下方から剣を振り上げた。私は体を捻り、ぎりぎりでそれを避け、距離を取るために後ろへ下がった。だがそう簡単に距離を取らせてくれるほど、甘くはないようだ。
何度距離をとっても、すぐに詰められる。
幸い今日はズボンなのでどれだけ動いても大丈夫。
さて、そろそろこちらも攻撃に転じようか。
後ろに引こうとした足を踏み出し、体を前に傾けた。襲ってくる剣を腕に負担をかけないよう受け流す。
その時できた隙を見逃すことなく、ネフロムさんの腹に足を振り下ろす。だが当たる前にネフロムさんは、大きく後ろに飛び退いた。
ちょっとビックリ。脚力すごいんですね。
ハーフエルフさんでしたね。人間よりも身体能力高くて当然ですよね。
そう思っている間にも距離を詰めます。
でも人間が出せるスピードでしか走らない。その勢いのまま切りかかる。が、難なく受け止められる。
私はあんまり力を込めていないから、攻撃は軽いだろう。
私は剣を引きながら左足を軸に右足を振り上げた。剣を持つ手を狙っていたのだが、当たる寸前で避けられた。不安定な左足をネフロムさんは見逃さず、私は足払いを受けた。
私なら足払い程度避けられるが、普通の人間(しかも見た目子供)が避けたら不自然。
格好悪いがここは甘んじて受けよう。
床に尻餅をついて剣を手放した私の首に、ネフロムさんは自らの剣を向けた。
「勝負あり。僕の勝ち、だね。」
ネフロムさんは剣を鞘に戻すと、私を立ち上がらせて私の剣を手渡してくれた。
剣を鞘に納めて、
「ありがとうございました。」
ぺこりと頭を下げた。
いつも間にか近づいてきたチェザンさんに、髪をがしがしかき回された。
チェザンさん的には頭を撫でているのだろうと思うけど、いかんせん力が強いのでそう見えない。
「すごいな、嬢ちゃん。これなら文句なしだ。嬢ちゃんはCランクとして登録しておこう。それでいいよな、ネフロム。」
「えぇ、もちろん。順当です。おめでとう、リヴィアちゃん。」
「はい!」
やっぱりネフロムさんの微笑みはきれいだね~。
普通の女性なら頬を染めるであろうそれに、無邪気な笑顔を返した。