第4話 ギルドにて
お昼時のギルドは多くの人で賑わっていた。
中に入ってすぐ正面に、上の階に続く階段とどこかに続く扉があった。
右手側は食事をとれるようになっている。見たところ、それほど素行の悪い者はいなさそうだ。たまたま今いないだけかもしれないが。
左手側はいかにもギルドだ。奥の壁には三種類の掲示板があり、そこにはちらほら人が集まっている。
私は、一つ一つ仕切りで区切られているカウンターの一番入口に近い所いった。
ひとまずあのお姉さんに聞いてみよう。
私に気づいたお姉さんがにっこり笑ってくれた。
おぉ~。癒し系の美人さんだ。見た感じ、20代半ばってとこかな。
「ギルドへの依頼ですか?」
「いえ、ギルドに登録したいんですが。」
私の返答を聞いたお姉さんが驚きの表情を浮かべたが、一拍の後、また先ほどの笑みに戻った。
私の見た目は10代前半の子供。成人が16歳だとしても、この年で、しかも少女がギルドに入りたいとは驚いて当たり前だろう。少年でも13歳くらいからでも早い方なのだから、この異様さはわかるだろう。
それにしてもギルドに年齢制限がなくて助かった。普通、これくらいの子供は家のお手伝い程度で、本格的な仕事にはつけないものだ。
私の場合、外見年齢と実年齢が伴わないと言うのは不便なことだ。
「登録規定はご存知ですか?」
「いえ、詳しくは知りません。」
「ではご説明させていただきます。」
お姉さんは「ギルドの登録規定」と書かれた用紙を取り出し、早く丁寧に説明してくれた。
要約すると、試験を受けてその結果を見てC~Fランクに振り分けられるが、試験に落ちることもあるらしい。
なぜC~Fなのかと言うと、いきなり高いランクについても、いくら強くても経験がなければ危険らしい。だからどれほど強くても、最高でCランクからの出発になる。逆に、最低限自分の身を守れるくらいの強さがないとギルドに入れない。
「使用武器はどうなさいますか?」
「剣でお願いします。」
「かしこまりました。試験官を呼んできますので、少々お待ち下さい。
お姉さんはカウンターの奥にある扉の中に入っていった。
たぶんあそこはギルド役員の待機室か何かだろう。
どんな人が相手になってくれるのだろうか。
魔物相手の時よりも加減に気を付けよう。やりすぎて変な目で見られるのも嫌だが、うっかり殺してしまうのも避けたい。と言うより、避けなければとんでもないことになる。
本当に気を付けよう、うん。
そう時間もかからず、お姉さんが扉から出てきた。次いで出てきたのは二人の男だった。
一人は30代半ばの赤髪青目の獣人さん。耳の形からして、イヌ科の獣人だと思う。
余談だが、私は大の動物好きである。思わず、耳を見て手をわきわきさせてしまったのは、ご愛嬌である。…だって仕方ないじゃないか、好きなんだもん!
もう一人は20代後半、茶髪赤目の美青年だった。エルフほどじゃなくても耳が尖っているところを見ると、彼はハーフエルフだろうか。何にしろ、私的には色気ダダ漏れにしていないところが好印象。
だってさ、私の周りにいる魔族って色気が半端ないわけだよ。しかも、高位の魔族は顔で獲物を釣るためめっちゃ美形。慣れるまで大変だった。精神的にものすごく疲れる。慣れた今でもふとした瞬間、気を抜くと色気に当てられる。だから色気ない美人は精神的に優しいため良い印象を受けるのだ。
ちなみに、獲物って言うのは単に餌ってだけの意味じゃないよ。ははは…。
お姉さんはカウンターの元の位置に戻ったが、二人の男性はカウンターを回って私に近づいてきた。
この世界の人は基本的に男性も女性も皆大きい。この体で見上げると首が痛いのだ。
首を気にしつつ、私は二人を見上げた。
「嬢ちゃんが、ギルドの登録希望者か。俺がここ、セチナ支部のギルドマスター、チェザンだ。まあ、よろしくな。」
この町はセチナと言う名だ。
ギルドの本部はこの大陸の中央に位置する、グラント帝国の王都にある。それ以外のギルドは支部と呼ばれる。各国は依頼をすることはできるが、ギルドに干渉できない。ギルドは不可侵で独立な存在なのだ。
この人がここのギルドマスターか。親しみやすそうな印象を受けるが目が鋭い。観察されてるな、これ。
自然体なのに隙がない。現役時代はさぞ強かったんだろうな。
「初めまして、試験官のネフロムと言います。よろしく。」
わぁ~この人も強いんだろうね~。試験官だもんね。ギルドマスターほどじゃないが、隙がない。
うむ、おそらくこの人が私の相手か。勝つのはやばそうだから、ほどほどの良い線いって負けよう。これは負けるのも大変だ。不自然な負け方にならないようにしよう。
ひとまず、好印象を持ってもらえるように無邪気に笑っておこう。
「初めまして、リヴィアと言います。こちらこそ、よろしくお願いします。」
ぺこりとお辞儀を付けるのを忘れずに。これ、大事。
「礼儀正しいな。」
「ではさっそく試験を始めようと思うけど、大丈夫かな?」
「はい。」
無事、好印象を持ってもらえたみたい。
第一印象は後々の評価に関わるだろうから、大切にしないとね。
私はネフロムさんの後ろに従った。さらに後ろにはチェザンさんが続く。
どうやら、階段横の扉は試験会場になっているようだ。
「頑張ってね。」
「はい!」
カウンターのお姉さんが送ってくれた声援に、元気よく返事をして扉をくぐった。
よし、(手加減を)頑張ろう!!