第1話 人間界へ行こう!
青い空、白い雲、誰が見てもいい天気…のはずだけど、私の心は曇天、雨降り…。
「私、何やってるんだろう?」
今日の仕事も一時間で終わった。
ここ十年ほどはいつも同じ単調な日常を繰り返してきた。
本当にこれでいいのだろうか。
私がここにいていいのだろうか。
平和になったこの国に、私は必要だろうか。
私は…何だろう?
ぐるぐると嫌な思考が廻る。私の悪い癖だ。一度嵌るとなかなか抜け出せない。
はぁ……。
こんなんじゃだめだ。
「よし、人間界に行こう!!」
うじうじ考えても仕方ない。
ここじゃあ、考えごとに向かない。
それに今思えば、私は生まれてこのかた国はおろか城すらもろくに出たことがない。
この機会に私の存在理由を探しに行こう。
人間界に行けば何かわかるかもしれない。見つかるかもしれない。
旅に出ます。探さないでください。
うわぁ~。
自分で書いといてなんだけど、典型的な置手紙だよね~。
こんなんで納得する人なんかいないと思うけど、他に書きようもないからいいや。
あとは…そう、魔力を隠さないと。
魔術を手紙に定着させておく。誰かがこの手紙を見るまで私がここにいるとごまかせる。
いきなり魔力が消えたら、誰かが飛び込んでくる。それでは私が人間界に行くまでの時間が稼げない。
最後の仕上げは、自分の魔力は漏れないように体を覆う膜を張って、完成!
初めてにしては上出来だろう。うん、うん。
基本的に私たち魔族は魔術を使うが、人間は魔法を使う。魔術は魔法をグレードアップしたものだ。人間の魔力量は、私たちに比べると圧倒的に少ない。だから魔術を使うのは一握りのエリートのみだ。逆に私たちは、威力の弱い魔法を使う利点はないので魔術しか使わない。
魔法も魔術も重要なのはイメージだ。これまた異世界の典型的パターンなのだが、私としてはわかりやすくて助かる。
ずっと前に読んだ本によると、人間は魔法詠唱や魔方陣を使わないといけない。
その点、、魔族は根本的な発動条件が違い、さらに魔力量が違うこともあって詠唱も陣もあまり使わない。だがやはり何事にも例外はあるようで、強力な魔術を使うときは詠唱や陣も使用する。
…はずなのだが、どうやら私はチートらしい。底なしの魔力を持ってるようで、何にもなしでいろいろできる。本当にいろいろできてしまった。今まで不可能なことがなかったくらい。
知らないうちに厄介なフラグ立ってたらどうしよう。
薄々気づいているかもしれないが、私には前世の記憶がある。前世では純日本人だった。
前世のおかげで魔術は簡単に使えるし、この世界にない技術や考えで国を発達させ、乱れを正すことができた。そして、こっそり新しい魔術も組み立てれた。前世様様である。
今回のことにも役に立った。…あの頃は国を出るなんて発想は皆無だったけど。
なにはともあれ、
「行ってきます。」
私は長年付き合った部屋に別れを告げ、静かに転移魔術を発動させた。
向かうは、人間界に接する国境の山脈。
あれ?……なんか忘れている気がするけど、ま、いっか。
重要なことを忘れています




