第8話 魔王様がいなくなった日
魔王様がお生まれになってから早58年。
私たちは魔王様の教育係としてこの世界のことをお教えしている間にも、魔王様の望みに従って法律を作りました。そのおかげで魔界の秩序が正され、飢えで同族を殺すことも人間を殺すこともなく、以前には考えられないほど平和に、かつ平穏に暮らせるようになりました。
魔族は例外なく魔王様に心酔しております。
魔王様がいらしゃるだけで皆の心の平穏は保たれるのです。
な・の・に
「これは、どういうことでしょう?」
思わず、現実逃避をしてしまった私は悪くないでしょう。
旅に出るってどういうことですか!?
探さないってそんなことあるわけないでしょう!?
魔王様は私を捨てるおつもりなのでしょうか…?
これはゆゆしき事態です。
他の三人にも知らせなければなりなせんね。
「シェノウ、ファティマ、ゼクス。緊急事態です。今すぐ魔王様の執務室に来てください。」
えぇ、本当にこれは緊急事態ですとも。
緊急事態と聞いて、三人は一拍の間もおかずに転移してきました。
「魔王様はどこいるのじゃ?」
ファティマ、開口一番にそれですか。まあ、当然ですが。他の二人も魔王様の気配を探っているようですね。
「魔王様の気配がないんだけど…どういうこと?」
いるわけないでしょうね。私だって探しましたし。どうして私を睨むのでしょうね、シェノウ?
私は魔王様の置手紙を三人の前に無言で差し出しました。
しばしの沈黙。
「ことを大きくすれば魔族たちに混乱を与えます。極秘裏に捜索をお願いします。」
「そうじゃな。すぐ調べよう。なに、魔王様は一度もこの城から出たことがないのじゃ。じきに見つかろう。」
この言葉が覆されるのは、数時間後の話。
帰ってきたら、私がどれほどあなたを思っているかお教えしましょう。
私から逃げようなどと思わないでくださいね、魔王様?
当の本人はこの時、悪寒で身を震わせていた。
リヴィアが忘れていたのは彼らの性格とリヴィアに向ける気持ちです。
悪寒があったのは買い物の時。
でも買い物が楽しくてそんなことすっかり忘れてました。




